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香港の歴史的建造物「皇都戲院」保存に議論 テレサ・テンさんも歌った劇場

保存か取り壊しかに揺れる香港の歴史的建造物

保存か取り壊しかに揺れる香港の歴史的建造物

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 香港地下鉄MTR北角駅と炮台山駅の中間にあり、第一級の歴史的建造物として認定されている「皇都戲院(State Theatre)」について現在、保存か再開発かで議論が分かれている。

現在の内部の様子

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 皇都戲院は「●宮戲院(Empire Theatre)」として1952年12月に完成。香港測量師学会グレイ(George. W. Grey)主席が設計し、3万平方フィート、当時の価格で250万香港ドルの建築コストで作られた。1173人収容の劇場と120人収容の試写室、地下には50台分の駐車場もあったという。

 同劇院の特徴は「Parabolic Roof Trusses」と呼ばれるアーチ型のトラス(三角形を単位として組まれた部材の構造形式)が屋上にせり出して見える点だ。トラスを意図的に露出させたのはアジアでも珍しいスタイルで、戦後直後の香港における現代主義建築のはしりであった。正面上部の壁に掲げられた8 × 8メートルの「「蝉迷董卓」と呼ばれる巨大な彫刻もシンボルの一つだ。

 同戲院は1957年に閉鎖され、翌年,Hong Kong Enterprises傘下で夜総会、地下駐車場をショッピングモールに改修したほか、11フロアから成る住宅(北ブロックと南ブロック合わせて200世帯)と店舗で構成される「皇都大廈」を増築した。1959年に皇都戲院として再出発し、テレサ・テンが歌ったり、映画が上映されたりするなど香港島東部のランドマーク的存在の一つだった時代もある。

 銅鑼湾方面から進むと、英皇道(King’s Road)が劇場手前で斜めにカーブすることから、カーブに入る前はほぼ正面に劇場があるように見える。その後劇場は1997年に閉鎖され、現在はスヌーカー場とローカル色が強めのショッピングモールとして使われている。

 2016年3月、近代建築の保存や記録を目的とする学術組織「Docomomo International」は皇都戲院を保存すべき建築物として、壊わさないように要望を提出した。他の組織を含めて活動を行い、その結果、古物諮詢(しじゅん)委員会(Antiquities Advisory Board)が等級では一番低い第3級の歴史的建造物として同年4月に認定。しかし3級では拘束力が弱いため、古物諮詢委員会に対して再評価を求めていた。その結果、今年3月9日に第1級建築物として認定されることになり、当事者は建築物を保存するため可能な限り努力をすることを求められることになった。しかし、これは義務ではないことから完全に保存が決まったわけではない。オーナーが再開発に同意すれば取り壊しは可能で、すでに8割のオーナーが再開発に賛成していると見られる。

 特定の者が物件を買い続けてオーナーになっているといわれており、その買い手をめぐって香港市民の間で話題になり、地元メディアでは「新世界発展(New World Development)では」とう見解を出しているところもある。

 保存を訴えている団体の一つ「活現香港(Walk In Hong Kong)」は12月11日~26日、皇都戲院の次のあり方を考えるイベント「皇都有落! 勁過65展覽(Next Stop: State Theatre An exhibition celebrating its 65th Anniversary-and beyond)」を開催し、皇都戲院の歴史的重要性や再利用の提案などを行い、保存に向けた世論形成を試みた。

 一方、再開発を目指すデベロッパーは、皇都戲院を取り壊して高さ15メートルの新しいスペースを作り、モール機能などを持たせ、その両脇の上部に21フロア分、高さにして105.3メートルのビル2棟を建設するプランを提案している。ほかにも、皇都戲院を残しつつ、その隣に高さは同じく105.3メートルの単独ビル建設という提案もある。いずれも延べ床面積は51万5865平方メートルで、家賃収入だけでも月2,000万香港ドル近くになるだろうと見積もられている。 

 デベロッパー案が通るのか、世論の声が強くなり保存されるのか、まだ予断を許さない状況が続いている。

●宮=●は王へんに施

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