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香港一の財閥を一代で築いた大富豪、李嘉誠主席が89歳で引退へ

香港の大富豪、引退を発表した李嘉誠主席

香港の大富豪、引退を発表した李嘉誠主席

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 香港最大のコングロマリット「長江和記実業(CK Hutchison Holdings)」と李嘉誠(Li Ka Shing)主席は3月16日、決算発表の記者会見で5月10日の株主総会をもって李嘉誠主席が引退することを表明した。後任には長男の李沢鉅(Victor Li)副主席が昇格する。

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 同ホールディングスの2017年12月31日期の決算は、売り上げが前年同期比9%増の4,148億3,700万香港ドル、利益は同6%増の351億香港ドルだった。2017年下半期は世界経済が回復基調になり、それに伴い小売価格が上昇したことが業績アップにつながったとする。

 引退理由は記者会見では明確に答えなかったものの、7月に90歳を迎えることが一つの区切りとなったようだ。2年前には胃腸炎で株主総会を欠席し高齢という現実が重くのしかかっていたうえ、帝王学を授けた長男に託してもグループを安心して任せられると判断したと思われる。株主総会後はグループの顧問に就任し、今後も経営陣にアドバイスをしていく予定だとした。今後は「3番目の息子」と公言する個人のお金で1980年設立した「李嘉誠基金会(Li Ka Shing Foundation)」の活動が中心となる。同基金は教育と医療に力を入れ、これまでに200億香港ドルの寄付を行ってきた。

 「超人(Superman)」のニックネームを持つ李主席は1928年、広東省潮州市で生まれた。日中戦争が始まり日本軍が南下してきたため深●まで10日以上に渡って歩き続け、深●から船で香港に渡ってきた。ところが1941年12月25日、日本軍が香港を占領し、再び日本軍の影響下で生活を強いられる。東日本大震災では基金を通じて100万米ドルの寄付がされたが、日本との関係はビジネスにおいても慈善活動においても薄い。

 李嘉誠主席は、香港で父親が亡くなり、13歳ごろから学校をやめて働かざるを得なくなった。最初の仕事は茶楼での給仕で、その後、親戚の時計店や金物店で働いた。1950年、自分の貯金と親族、友人からお金を借りて約6500米ドルで「長江塑膠廠」を設立。プラスチックを製造する会社で、最初は石鹸入れなどを作っていた。その後、イタリアの造花工場に赴き、工場のオーナーであることを隠しながら働き、造花の製造技術を身につける。香港に戻って「香港フラワー」としてしられる造花で大成功を収めた。

 「30歳を前に、働かなくても家族を養えるほど成功した」と本人は言うが、ビジネスへの意欲は強く、不動産事業に進出する。1967年に発生した反英暴動で不動産が暴落したが、必ず不動産価格は上がると確信し、香港フラワーで得た多額の資金を活用して安値で不動産を大量購入。その予想が的中しさらに成功を収めた。これがデベロッパー、そしてコングロマリットへと姿を変えていく事につながる。

 今でこそ中華系のデベロッパーが支配する香港だが、それまではスワイア、ジャーディン・マセソンなどイギリス系の企業が香港経済を仕切っていた。イギリスの財閥「和記黄埔(Hutchison Whampoa)」は、小売、食品製造の屈臣氏集團(香港)(A.S. Watson Group (Hong Kong) やスーパーの百佳超級市場(PARKn SHOP)などの経営で知られている。1973年の石油ショックで経営不振に陥り香港上海銀行(HSBC)が株主となって破綻を逃れたが、李主席はHSBCと水面下で交渉しハチソン株を手に入れ筆頭株主となった。中華系のデベロッパーがイギリス財閥を買収したことは香港の経済においてエポックメイキングな出来事だった。

 現在の長江の事業は、ハーバープラザ系のホテル、海逸豪園(Lagna Verde)や伊利莎伯大廈(Elizabeth House)、香港島の電気を供給する電能實業(Power Assets Holdings)、携帯電話の「3」を運営する和記電訊(Hutchison Telecom)、水を販売する屈臣氏蒸餾水(Watson's Water)、家電量販店の豊澤電器(Fortress)、ラジオの新城電台(Metro Broadcast)など香港の生活に密着したものばかりだ。

 大成功を収めたことで多くの香港人の尊敬を集めてきたが、潮目が変わったのは2013年3~5月の香港國際貨櫃碼頭の労働者による賃上げや労働待遇の改善を求めてストライキだ。ハチソンが同社の親会社で、当時の経営側の対応が不誠実で、最終的には香港政府が介入するほどこじれたため、李主席は労働者の敵のような位置づけに変わった。同時に不動産価格が高騰を続け、香港市民が簡単に家を購入できなくなっていた原因の一つは、長江を中心としたデベロッパーによる「不動産覇権」のせいだという声も大きくなり、尊敬される存在ではなくなりつつあった。

 長江以外には、新鴻基地産(Sun Hung Kai Properties)、新世界発展(New World Development)、恒基兆業地産(Henderson Land Development)という4大デベロッパーが有名だが、李主席の引退により、恒基兆業地産のトップで、李主席と同い年である李兆基(Lee Shau Kee)のみが第1世代として経営を続けている。マカオのカジノ王でデベロッパーの信德集団(Shun Tak Group)を創設した何鴻●(Stanley Ho)さんも引退しており、香港経済を引っ張ってきた一つの時代の終焉はすぐそこまで来ている。

 深●=土へんに川、何鴻●=●=火かんむり、火を2つに木

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