
香港で3月に展開してきた「香港スーパー・マーチ(Hong Kong Super March)」を象徴するイベント「アート・バーゼル香港」が3月30日で閉幕した。世界経済の低迷、中国本土の景気低迷やオークションの落ち込みなどが見られた香港のアート市場に開幕初日から取引成立するなど、活発な動きが見られた。
ルー・ヤン(Lu Yang)さんのバーチャルキャラクター「DOKU」のデジタル作品
デヴィッド・ズウィナー(David Zwirner)は、草間彌生さんのアクリル・オン・キャンバス作品「INFINITY-NETS [ORUPX](2013)」を350万米ドルで落札した。ほかにも、Christina Quarles(クリスティーナ・クォールズ)さんのアクリル画「Push'm Lil' Daisies, Make'm Come Up」(2020年)にも7桁以上の値が付き、135万米ドルで落札された。高さ183センチ、長さ213センチの大作は40歳の画家を象徴するもので、シャープで幾何学的なパターンと平面が交差し、大胆な色彩で描かれた人物像が互いにつながり合い、流動的に表現されている。
今回の開催には世界42カ国・地域から240のギャラリーが参加し、会場は例年通り湾仔の香港コンベンションセンターで開催された。28日からの週末は多くの一般客にも開放され、会場はにぎわった。
アート・バーゼルはスイスの都市バーゼルで1970年に始まった世界最大級の近現代アートフェアとして知られ、2025年も香港での開催を皮切りに、本家のバーゼルのほか、マイアミビーチ、パリの計4都市で開催される。
「アート・バーゼル香港2025」の展示部門は8つに分かれ、世界有数のギャラリーが近現代美術の巨匠や新進気鋭の作品を多数展示した。メインとなる「ギャラリー(Galleries)」部門には世界各地から194のギャラリーが参加。同イベントの特色の一つである、アジア・アジア太平洋地域にテーマを合わせた「インサイト(Insights)」部門には日本の6ギャラリーを含む全24のギャラリーが参加し、複数のギャラリーが1970年代以降のアジアにおける写真表現をテーマに展示内容を構成した。
従来のアート展示の枠を超えた大型の作品に特化した「エンカウンター(Encounters)」部門は過去最大規模となり、「As the World Turns」のテーマの下、14点の新作を含む18作品が展示された。
会場内で注目を集めたのは、中国人アーティストで東京を拠点とするルー・ヤン(Lu Yang)さんのバーチャルキャラクター「DOKU」のデジタル作品。AIで生成された108点の作品を「ブラインドボックス形式」で販売するポップアップストアを会場内で展開した。
さらに今年は「ディスカバリー(Discoveries)」部門に新進アーティストの支援を目的とするMGMディスカバリーズ・アートプライズを新設。最終候補には、P21(ロンドン)から出品するシン・ミンさん、Sweetwater(ベルリン)から出品するカエデ・オジョさん、Tarq(ムンバイ)から出品するサジュ・クンハンさんを選出。その中から、シン・ミンさんのインスタレーション作品「Ew! There is hair in the food!!」が初の受賞。マクドナルドやスターバックスで働いた個人的な経験から、韓国の高圧的なサービス業や企業部門で女性が耐えている厳しい現実を掘り下げた作品。作品にはマクドナルドの茶色い紙袋などを使う。広範な社会的不平等への批評を自画像として、また現在の社会構造の中での女性の忍耐への賛辞として表現したという。
このほか、会場内外でも一般無料公開プログラムを開催。香港を代表するアート機関のパラサイト(Para Site)がプログラムを構成した「フィルム(Film)」部門の映画・ビデオ上映や、毎年定番の「カンバセーションズ(Conversations)」部門のアーティストや専門家によるパネルディスカッションなどを催した。会場外のM+ファサードには、昨年東京都現代美術館で個展を開催したシンガポール人アーティスト、ホー・ツー・ニェン(Ho Tzu Nyen)さんの共同委嘱による映像作品「Night Charades」を連動して上映。同作はAIによる映像の再構成とアルゴリズムを用いたリアルタイムの編集プロセスによって製作し、香港映画の象徴的なシーンをアニメーションで新たに描き出すことで香港映画史を新たな文脈で紡ぎ直すことを試みた。