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香港のフードデリバリー事情【第3回 Oisix】

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 2000年に日本で創業したOisixは、日本国内の業績が安定してきた2009年、海外展開を視野に入れた動きを開始した。輸入制度が整備され、自由貿易港があり、日本産が好まれる土壌がある場所として香港をファーストプレスとして選び、事業を始めて早くも12年目に突入し、今や上海やアメリカへ進出している。当初は主に香港在住の日本人にターゲットを絞っていたが、ここ数年は香港人に向けサービスを進化させてきた。「忙しい香港人は、例え買い物でも効率よく合理的な方法を選びがち。近年では食品の産地を確認したり、フレッシュなものを求めたりする人が増えてきており、CitySuperやYATAなどの大型スーパーという選択肢がある一方、自身で買い物に行くより時間を無駄せずに高品質なものを手に入れる方法の一つは、オンラインで注文できる宅配便だと考える人もいる」とオイシックス ・ラ・大地海外事業部事業部長の白石夏輝さんは話す。

 すでにEコマースが発達している日本と比べると、香港の発展は大変遅い。「コロナでHKTVmallが伸びる状況を目の当たりにし、オンラインでの食品購買をすることに抵抗がなくなったことから、まだまだ伸びる余地がありそうだ。Eコマースでの食品販売はこれまでハードルが高かったが、オンラインで買うことに対する恐怖心や不信感、心配などが無くなってきた」と白石さん氏。そこで同社が香港マーケットに仕掛けたのは、分かりやすいサービスデザインだ。生鮮食品の要ともいえる「新鮮さ」は香港人がよくチェックするポイントであるため、日本の食材を週3回の頻度で空輸する。「短い期間で香港へ運ぶことが大事。ほかのサービスよりもリードタイムが短いことで、フレッシュで、きれいで、長持ちできる状態で顧客へお届けしたい」

 現在、「Oisix Weekly」と呼ぶサービスが定着し、1週間の食事をサポートする仕組みで、野菜や肉など多様な食材を顧客に届ける。「自分で調理したい日や簡単に作りたい日など、フライパン一つでできる料理やレンジでの調理する献立など、さまざまなシーンを想定しながら食材を幅広く取り入れている」。毎週届ける食材についてのこだわりは、「季節において一番おいしいものを選定すること」だという。「1週間違うだけおいしさが変わるものなど、その時期に最も旬な食材を選定し、『今ならこれがおいしいぞ』と自信を持ってお届けしたい。そしてたまには『何これ?』と思われるような、普段なじみのない食材も入れたりする。料理好きの方は、知らない食材との出合いで楽しく調理していただくのと同時に、料理が苦手の方も『難しいな、やりづらいな』と思わないよう、ゆでるだけ、炒めるだけの調理法など、初めて出合った食材も調理できるようにレシピを合わせて提案する」。同社のサービスは「Oisix Weekly」のほか、自分の好みで商品を追加することもできるが、トップセラーは小松菜、ミニトマト、桃などの野菜とフルーツ。「最近はパンや生クリーム食パンも人気が出てきており、それは香港のパン屋で好きなパンが見つけられないかもしれない。弊社が提供する鶏肉はホルモン剤を一切使わず、冷凍でも生のようにおいしくてジューシーで利便性もあるため、非常に反応が良い」と続ける。

 12年にわたり香港で経営してきた中での一番のチャレンジは、香港人が購買習慣を変えることだという。「もともとEコマースを利用する習慣がなく、特に食品に対しては品質の高いものを求め、香港人は自分の目で見て新鮮かどうかを判断することに慣れている。オンラインで日本から食品を取り寄せることも、定期サブスクリプションも浸透してないため、単品で買うことが多かった」。そこでOisix香港は香港人の興味を引きつけながら、宅配便の安心安全をアピールし続けた。その継続的な努力もあり、それがより多くの香港人に日本産=安心安全と思ってくれるようなアピールにつながったたと思う。『作った人が自分の子どもに食べさせられるもの』という理念で、農薬、添加剤、ホルモン剤などのない安心な栽培を徹底しており、約4000軒の農家から直接取り寄せている。国の基準ではなく、会社独自の基準を準じた安心安全、かつ一流の味をフレッシュな状態でお届けしているため、食べてもらえばその特徴が分かってくれるはず。」と話す。

 日本のOisixでは料理ごとに合わせた食材パック「ミールキット」を提供しており、香港にも本年度中に入れたいと考えている。「ミールキットなら、インスタントのフードパックと同じく時短で簡単であるにもかかわらず、添加物が入っておらず、日本の高品質とおいしさを実現できる。自分で味付けすれば好みの味にすることもできるし、カスタマイズできるのも特徴」。ミールキットで提供する料理メニューは現在開発中で、主に日本の家庭料理や洋食に重点をお置きながら、材料の調達を検討しているという。

 コロナ禍が経済活動へ多くの制限を与えたにもかかわらず、大きく成長を見せた香港のEコマース市場。2020年、「Oisix Weekly」へのサブスクリプション数は2019年と比べて250%増加し、3月~5月の売り上げも2019年同期比の3倍となった。コロナ禍の時期に急きょ変容した状況に、マーケティング戦略も追いつかなければならない。「政府の防疫措置などで隔離が必要となった人や、恐怖から外出したくなかった人も多い。初めて家にいることが、リスクを減らすメリットがあると考える心境の変化もあっただろう。自分で買い物のために外出するより、宅配によって便利で安心な食品を届けてもらえる方が、メリットがあると考えたことで、多くの人がEコマースの良さを体験した。なおかつ、弊社の顧客は日本好きな人が多く、訪日ができない今こそ日本の物が欲しくなり、食品などで日本を感じたいから、少し高くても買ってみるとの声もある」。食品だけでなく、日用品などあれば購入したいという顧客の声に応え、現在はシャンプーや洗顔料、職人が作った布巾など、体に触れる、食に関連するものも提供している。これからは事業成長につなげるため、安心安全を踏まえた前提で、お菓子やスイーツも重点項目として増やしていく予定だ。

 コロナの終息が見えない中、ポストコロナのEコマースに対して白石さんはこう考える。「オンラインでの食品購買を続ける人と、元の習慣に戻る人と二極化したとしても、マーケット自体は拡大していくと思う。それより、多くの人は健康について考えるようになったことが、コロナ禍がもたらした社会現象として挙げられる。自分自身や家族の健康のために、食品の品質を求めたり、外食より自炊したり、運動を始めたりするなど、健康意識が高まり、それに関わる習慣とアクションも増えるでは。そうした需要に対し、サービスや商品の進化が必要だ」と分析する。コロナで失ったこともたくさんあるが、大事のものも得たと考える白石さん。「リモートワークや隔離で、人と人のつながりを大事だと思えたり、家族のために時間を使いたいと思ったりする人もいる。健康や食を通じて人の間が触れ合う機会になったのでは。大事な人と楽しく健康的な食事が実現することさえ難しいコロナの時期は、その大切さを教えてくれた」と締めくくる。

 

 

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