返還以来の世界の注目を集める香港の「真の普通選挙」を求めるデモ「占領中環(オキュパイセントラル)」で10月5日現在、学生と民主化を求める市民たちに安全と秩序回復を話す動きが広がっている。
9月28日に警察が催涙弾をデモ隊に発砲し一時混乱した後、デモは銅鑼湾(Causeway Bay)、旺角(Mong Kok)など別の地区にも広がりを見せ、3日にはデモ隊が襲われるという事態にまで発展した。催涙弾発砲後、デモ隊が解散すると予想されたが、これらの地区のほか、歓楽街の一つ湾仔(Wan Chai)、香港最大の買い物エリア尖沙咀(Tsim Sha Tsui)地区と主要地区にデモは広がり、実質「占領繁華街」と化したことで結果的に警察の負担が増えた。
旺角での暴行は警察とマフィアが裏で手を結んだという情報も多くのメディアが報道しているが、そうとも一概に言えないようだ。旺角はマフィアにとってシノギの大拠点。デモ隊に閉鎖された道路は弥敦道(Nathan Road)という大幹線で、彼らが経営するホステスクラブ「夜総会」が道沿いに数軒あり、売上が減少していたようだ。一方で、共産党支配下おかれるよりは1国2制度の方がシノギがやりやすいためデモを支持するマフィアもいた。現場では、テントなどを壊したり混乱させたりすれば報酬が出ると呼び掛けに参加した攻撃的な人たちが増える一方で、彼らと市民が学生を守る様子も見られた。
交通機関については幹線道路がふさがれたため、多くのバス路線が運休または路線変更を強いられたが地下鉄が運行していたため、大きな混乱はない。香港を走る定員16人の赤い屋根のミニバスはドライバーが個人営業しているため、ある程度路線を自由に決められ重宝された一方、香港の3大マフィアの一つ「新義安」は4350台ある赤いミニバスのうち25%を支配下に置いているといわれていることもあり、従来15ドルかかる中環から旺角の料金が30ドルにまで跳ね上がっている。
小売業への影響も徐々に出ていている。ホテルでは客室のキャンセルが発生しているほか、該当地区にある日系レストラン店では1日の来店客数が6人という日があったという。新聞スタンドに話を聞くと「売り上げは変わっていない。ただ売り上げ構成が変わってたばこが売れるようになった。ストレスなのでは」とデモ隊を気遣う。
約2万9000人いる警察はデモが各地に拡散したため人手不足となり、すでに退職した警官まで動員されているという。ある警官に柵越しに話を聞くと、「普段は水上警察として働く。水曜日からずっと出ていて、もう3日目」。当初は学生が相手だったこともあり、最前線の警官は神経をすり減らしていた。長期化を受け双方に疲労が広がり全体の雰囲気は重くなり、小さなことでもいらだつ場面もあった。「シフト制を敷いているが、家に帰るのはもう少し先になりそう」と話す警官も。
今回のデモ隊は非常に組織だっている。道路の至る所にテントが設営され、そこには水、食料、傘、ティッシュ、マスクなど大量の物資がある。あるテントのリーダーは「ボランティアで自然発生的にできたもの。テントも寄付で、自分が持っている空き家の不動産物件を物流センターとして開放してくれた人もいる」と話し、デモは市民全体が支える草の根運動となっている。
リーダーたちのやり方に不満を覚える学生も出てきており、学生グループの象徴である黄之鋒(Joshua Wong)と学生組織の求心力も低下傾向が見られる。梁振英(CY Leung)行政長官10月2日に辞任拒否の会見をした後、一部の学生がもう一つの香港島の幹線である龍和道(Lung Wo Road)を占拠。学生組織の幹部は「平和的に進めるのに、こんなことをしては困る。歩道に戻ってほしい」と必死の説得を試みるが拒否。旺角でも5日に同地から撤収することを決めたが6日の深夜1時半現在も大勢のデモ隊が居残るなど、デモ隊幹部の要請を無視。事態の長期化により新たに発生する問題が顕在化している。
引き続き民主化を訴える人、若者を応援する人、自分の政治的な考えを演説する人、若者に教えを説く老人など、現場ではさまざまな小さな集会が次々と繰り広げられている。誰もが生きる上で抱える問題の縮図が見え、各方面疲労が極限状態に近づく中、小競り合いと同時に人間として思いやり合うシーンなども垣間見られる。