
今年の夏の訪日旅行について、地震のうわさから大きく予約が落ち込んでいた香港市場で7月5日から1週間が過ぎ、各旅行会社への問い合わせが回復するなど復活の動きが見られる。
日本政府観光局(JNTO)が発表した5月の訪日香港人数は前年同月比11.2%減の19万3100人。前月比でも26.7%減少し、他の東アジア市場が堅調に推移する中、香港市場の動向は際立っていた。
背景には、漫画家・たつき諒さんが見た夢「2025年7月に大災害が起きる」とする予言がある。2021年に出版された「私が見た未来 完全版」に記された内容がSNSを通じて拡散され、香港では著名な風水師らが相次いで警戒を呼びかけた。香港人の間では風水や予言への関心が高いこと、年に何度も訪日するなど日本に行くことが当たり前であることなどから、4月のイースター時期を境に多くの香港人が日本旅行をいったん取りやめる動きが広がった。地震関連情報を更新するフェイスブックの公開グループ「日本予言:我所看見的未来」には28万7000人が登録し、香港からも「強震モニター」などの日本の地震監視コンテンツなどに接続し、日本の動向を見守る香港人も多くいた。
このうわさは航空業界にも大きな影響をもたらした。香港航空は仙台、熊本、鹿児島、名古屋便の減便・運休を発表。グレーターベイ航空も徳島、米子、仙台便を減便し、9月以降は運休に踏み切った。香港エクスプレス航空も冬ダイヤの静岡便などは予約できない状態になっており、既に夏の期間中はベトナムや中国本土への新たな就航を決め、現時点で回復の見込みはない。
7月5日を過ぎると状況は一変。予言された災害は起こらず、香港の訪日旅行をメインに扱う旅行各社が5日からキャンペーンを仕かけた。
東瀛遊(EGLツアーズ)社は「We are ready Konnichiwa」と題したライブ配信を実施。現地ガイドや在住香港人と中継をつなぎ、東京や大阪の様子をリアルタイムで伝えた。訪日商品の800香港ドル割引キャンペーンも始め、100種類以上の日本行き特価ツアーを発表。8月以降の予約回復を見込んでいる。例年1万1,000香港ドル前後だった大阪5日間ツアーを5,000香港ドル以下で提供するなど、企業努力も重ねる。EGL社では、7月5日・6日の2日間で4000件以上の訪日旅行に関する問い合わせがあり、「既に秋の紅葉時期は昨年の申し込みを上回る見込み」と●國全執行董事は話す。
パッケージツアーズ(WWPKG)社は「流言終結日」と銘打ったキャンペーンを展開。大阪5日間2,999香港ドル、北海道6日間4,999香港ドルなどの格安ツアーを打ち出し、2人目半額サービスや地震保険付き商品も投入した。SNSでは現地の安全を強調する投稿を増やし、安心感を打ち出している。袁振寧董事長は「ここ数日、顧客からの問い合わせと申込件数が7月5日以前と比べて10倍近く急増し、そのほとんどが8月と9月に出発の内容。予想を上回っている。追加の地震保険とキャセイパシフィック航空の搭乗保証が、顧客がツアーに申し込む動機をさらに強めた」と話す。
航空業界も反応を見せた。香港エクスプレスは7月6日~10日、日本13都市への航空券を対象に、チケットを往復216香港ドルからとする割引セールを実施した。
旅行オンラインサイト「Expedia」によると、7月5日以降の東京行き検索数は95%増加し、年初来の最高を記録。大阪や福岡もそれぞれ80%以上の伸びを見せている。ホテル検索も40%増加し、東京、大阪、福岡、京都、北海道が人気の旅行先として浮上しているという。
香港人は風水や縁起を重視する傾向が根強く、災害予言のような情報に敏感に反応する一方、情報の収束後には迅速に行動を切り替える柔軟性もある。SNSや口コミを通じた情報共有が活発で、旅行先の安全性や雰囲気をリアルタイムで確認できる環境が整っていることも、回復のスピードを後押しした。
香港人はもともと海外旅行への関心が高く、短期滞在を中心に年に複数回渡航する層が厚い。Klookのデータによれば、もともと2025年夏の旅行先トップ3は東京、バンコク、大阪だったこともあり、地元メディアでも、「地震予言の影響は一時的なもので、今後は回復の見込み」とする論調が多く見られる。
7月5日前後、香港から日本に向かう各航空会社の飛行機は多くの中国本土人やインド人が搭乗していた。航空運賃が下がったこともあり、香港を経由して日本に向かう人も多い。香港のハブ機能は生きていながらも、多くの地方便が運休になってしまった現実を前に多くの課題も残る。一連の騒動は、香港市場の特性を改めて浮き彫りにした。風水文化に根ざしたリスク回避行動と、情報収束後の迅速な反応を見せた香港人。訪日を「返郷下(里帰り)」とまで表現する市場でV字回復が期待される。
●=示へんに四に羽