
李家超(John Lee)行政長官が9月17日、施政方針演説を行った。ここ数年、内需低迷の影響で経済に力強さが欠けており、いろいろな政策を打ってきたものの大きな改善が見られない。今回の政策には、さまざまな業界関係者たちと40回を超える意見交換会を行い、700を超える政策を講じることで反映させたとしている。大きな目玉はないが、全方位にわたってさまざまな政策を打っている。
政治面では、公務員の「部門首長責任制(Head of Department Accountability System)」を導入する。政策を実施するに当たり、担当者の役割を明確に規定し、各部門のトップが政策についての責任を取る。この背景には、香港政府が政府機関で利用するウオーターサーバーについて香港政府は契約先の一つとして中国本土の企業と契約を結んだが、ブランド偽装をしていたことが発覚。香港社会でも大きな問題となったことから、これらに対処するための措置と見られる。
AIの活用を積極的に行う。政府はAIの専門チーム「人工知能(AI)效能提升組(Artifi¬cial Intelligence (AI) Ef¬ficacy Enhancement Team)」を立ち上げ、AIを積極的に活用する。2026年には「香港人工知能研發院(Hong Kong AI Research and Development Institute)」を設立し、香港人のAI人材の育成を行う。行政サービスに関してAIを導入することで業務の効率化を図るほか、交通渋滞、水害、土砂崩れなどについてAIを使って予測するシステムを開発する考えだ。
香港北部に大規模な経済ゾーンを建設する「北部都会区(Northern Metropolis)」の整備については数ある経済政策の一つではなく、独立した一つのカテゴリーに分類するほど力を入れている。
新界(New Territories)北西部にある洪水橋(Hung Shui Kiu)周辺は23ヘクタール分の産業用の土地があることから、その活用法を考える特別チーム「発展及営運模式設計組(Working Group on Devising Development and Operation Models)」を編成。新田(San Tin)には、3つの医療関係の学校、健康関連する科学技術の研究を行う施設の建設を実施する。北部都会区と同じ経済エリアと考える粤港澳大湾区(Guangdong-Hong Kong-Macao Greater Bay Area)構想の中で、2027年に「国際臨床試験学院(International Clinical Trial Academy)」という臨床試験のアカデミーを設立するなど、医療関係にも力を入れる。
香港政府としては金融を中心に、国際的なハブになる都市としての地位を固めるため、世界各国との経済的な結びつきを強める。9月からはサウジアラビア、バングラディシュ、エジプト、ペルーとの投資協定を締結。2025年末にクアラルンプールに香港経済貿易代表部(ETO)の事務所を開設するほか、エジプトのリヤドにも事務所を構える計画だ。ETOを通じてラテンアメリカや中央アジアの国々との関係を強めていくとしている。
飲食では、犬をレストラン内に同伴させることができるようにする。申請し、認可を受けた飲食店ではオーナーが犬と一緒に入店することが可能となる。店には犬の入店が可能であるという看板を掲示する。屋外の座席についての承認プロセスを簡素化し、レストランが集客しやすい環境を整える。
観光では、香港国際空港の機能強化を推進していく。9月23日からは第2ターミナルに造られた、観光バス、越境バスを中心としたバスターミナル部分の供用を始めるほか、2026年3月~4月から段階的に各種施設を稼働させていく。
さらには、「香港国際機場東莞空港中心(Hong Kong International Airport Dongguan Logistics Park)」の第1期が2025年末に完成する。これは、東莞にある同施設で貨物に関する手続きを終了させた後、水路を使って荷物を輸送。香港国際空港で待機している飛行機に直接運び込むもの。運送コストの削減を図ることが可能となるとしており、物流のハブとしての強化の一環。2027年前半に全面的な運用開始を目指すとしている。
ラマ島(Lamma Island)と香港国際空港近くにヨットやクルーザーなどが停泊できるマリーナを建設する。特に空港近くのマリーナは500隻分、最大で長さ80メートル以上の大型船が停泊できるように整備する。
環境面では、2026年前半を目標に電気自動車(EV)で使われていたバッテリーのリサイクル施設を建て、環境に優しい都市を目指す。香港は全18区あるが、各区に何らかのテーマを設定した公園の造成を行うほか、蘭桂坊(Lan Kwai Fong)周辺道路の美化を行う。
住宅に関しては、2026-27年度から2030-31年度の間に18万9000戸の公営住宅を建設する。これは2022-23年度から2026-27年度と比べて80%増加させることになる。政府は公営住宅に入居できるまでの待機期間は4-5年になるとしているが、これらの目標については前年を踏襲した。