
香港立法会は10月15日、ライドシェアについての法案「2025年道路交通(修訂)(網約車服務)條例草案(Road Traffic (Amendment) (Ride-hailing Service) Bill 2025)」を可決した。早ければ2026年第4四半期からの施行を予定している。事実上、「白タク」がなくなることになり、安全性がより担保されるほか、両者とも法律で規制されることでほぼ同じ土俵で競争することになり、顧客獲得のためサービスの向上も期待されている。
香港市民の約9割は公共交通機関で移動しており、タクシーは香港市民の重要な足の一つ。タクシーについては、まだレッセフェールの名残もあり、ライドシェアについては特に法律を制定していなかった。しかし、香港政府は新たに5社にタクシー業務の認可を与えたほか、電子決済義務化など徐々にタクシー業界に関与し始めている。この背景には香港市民が長年にわたりタクシーのサービスに不満を感じており、香港を訪れる観光客にも香港に対するネガティブな印象を与える時があった。
白タクは香港でも違法で、2018年には20人以上の一般ドライバーが白タクで罰金刑を受けている。ドライバーがライドシェアをしたければ、2014年に香港でサービスを開始したUber、2024年に参入したTADAなどに登録する必要がある。例えば、Uberは正式に登録者数を公表していないが、過去1年間に香港で3万人のドライバーが収入を得たことを明らかにしている。
タクシードライバー側は、ライドシェアは、料金設定が規制されておらず状況によってはタクシーより安いことから自らのビジネスの脅威であり、しかも法律のグレーゾーンでの運行であることから、規制を求めるデモを行うなどしていた。香港政府としても、中国本土の車両が一定数、香港内を走行する事を認めるなど、タクシー業界にさらなる悪影響を与える政策を実施することもあり、タクシー業界に配慮した面もある。
ライドシェアでレンタカーは使えず、車両の所有者がドライバーでなければならない。車両の年数は12年未満で、製造後12年以上経過した車両は認められない。ドライバーは21歳以上で永久居民の資格を所持し、運転免許証取得から1年以上経過していなければならない。保険の加入が必須で、過去5年間に重大な交通違反がないことも条件となる。
香港でタクシードライバーになるには、運輸署(Transport Department)の「的士筆試(Taxi Written Test)」に合格しなければならないが、ライドシェア用に創設される筆記試験にも合格しなければならない。ただ、既にタクシーの試験をパスしたドライバーは新しく創設されるテストを受ける必要はない。試験は早ければ2025年11月から始まる計画で、ライドシェアと一般車を見分けるための何らかの表示をすることも行う。
配車プラットフォーマーがライセンスを取得せずにサービスを提供した場合、最大で100万香港ドルの罰金と最長1年の懲役刑に処せられる。また、資格を持たないドライバーを手配した場合は、初犯は最大で6カ月の懲役と1件当たり1万香港ドルの罰金。再犯の場合、懲役刑は2倍となり、罰金も増加されることになっている。
法律は大まかのところが決まっているが、無免許運転者が違反した場合はどうするか、政府から認可を受けたライドシェアの車両の数など、細かいところまでは決まっていない。香港政府は2026年上半期に詳細を規定した法律を立法会に提出し、速やかに法制化し、同年第4四半期から今回通過した法律を施行させたいと考えている。特にライドシェアのライセンスを取得する車の数については、香港政府も慎重に見極めているようだ。ライセンス発行数が多ければ過当競争に陥る可能性があり、少なければ特にタクシードライバーの交代時間時に簡単に車両が見つかりにくくなり、市民生活に影響を及ぼす。プラットフォーマーに対しては既に、運行についてのデータ保持と政府への提供を義務付けており、そこから適正数を判断する。
プラットフォーム、車両、ドライバーいずれにもライセンス化を推進することで、タクシー業界とライドシェアの長年の抗争は終了する。香港政府としても、グレーゾーンをなくすことは、タクシー全体に対するに対するネガティブな要素を一つでも多く取り除く結果となり、香港を訪れるリピーターの獲得につなげたいという思惑もある。