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香港のマンション火災、香港人らしさ全開にした被災者支援の輪

火災後、物資を届けに多くの人が現場に集まった

火災後、物資を届けに多くの人が現場に集まった

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 香港の新界(New Territories)の大埔(Taipo)地区にある公営住宅「宏福苑(Wang Fuk Court)」で11月26日に発生した大規模火災は、「おせっかいかたぎ」が強い香港人らしさを生かしたボランティア活動を通じて被災者を迅速に支援する姿が多く見られていた。12月3日現在、159人が死亡、79人がけが、31人が行方不明となっている。発生から一週間を迎え、3日、炎上した7棟すべての住宅棟内部の捜索を完了した。

近隣の店舗は火災発生後すぐに必要なものをセットにまとめて提供

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 香港人の迅速な動きと団結力、ITを駆使した現場での動きと随時更新される情報、人を思いやる気持ち、何より悲しんでいるよりもまず行動するという前向きさが現場にあふれていた。現場にはトラックで段ボールを運び込む人もいれば、ペットボトルの水やバナナなどの果物、自分が運べるだけの物を詰めて現場に駆け付ける人もみられた。多くメイドとして各家庭に住み込むインドネシアやフィリピンなどのアジア人も犠牲になったが、国際社会である香港で生活するさまざまな国籍の人も香港人と一緒に現地に駆け付け、自ら動いて支援していた。火災後最初の日曜日に当たる30日には現場に直接出向き、花を手向ける人の姿が後を絶たず、大勢が集まり、その長さは2キロにも及んだ。献花は平日も毎日続いている。

 1983年6月に完成した宏福苑は8棟から成り、各棟31階建て。1フロア当たり8戸、計1984戸。広さは431~483平方フィートの2ベッドルームが基本となっている。

 今回大きな話題となったのが竹の足場。「足場の竹が火災を広めた原因では」という臆測が出回ったことで、多くの香港人が香港文化を象徴するアイテムの一つでもある竹について、日本人に対してもSNSなどを通じて修正する動きも見られた。イギリスのUCLが出した論文によると炭化速度は木材の数値に近い評価をしており、竹が極端に燃えやすいということではないという。

 香港政府は、防護ネットと改修工事のため窓に設置されていた発泡スチロールが火災の状況を悪化させたとしており、仮に竹ではなく金属の足場だったとして、今回の火災と同じ防護ネットを張っていたのであれば、火災状況に大きな差はなかったと見られる。

 これだけ竹の足場が注目を浴びたのは、「高層ビルが立ち並ぶ都会の香港で竹というアナログを連想させるような昔ながらの足場を使うというギャップ」のため。竹の足場は香港らしい街並みを作り出してきたが、今でも竹の足場が使われるのは価格が影響している。竹は長さ22フィート(約6.7メートル)で1本当たり15香港ドル(約300円)。280香港ドル(約5,600円)の金属製と比べて圧倒的に安い。耐久性もあり、壁から60センチの空間があれば足場を組み立てられるため、狭く、地震の影響がない香港には適している。ただし、竹の足場を組むには試験に合格する必要がある。工事現場には、竹の足場を組む職人が欠かせない。

 香港らしさで言えば、「おせっかいかたぎ」が良い形で「互助精神」として現れ、被災者の支援体制があっという間に構築された点が挙げられる。これには、過去約10年間で民主化運動などが発生した際にも、ボランティアがその活動をバックアップし、そのノウハウが今回も生かされ、食料、衣料など必要物資を供給する態勢を整えた。寝泊まりができる避難所の情報、ボランティアの募集、尋ね人と尋ねペットの案内、安否情報、物資の供給場所の地図が一目で分かる総合的なウェブサイトも早急に構築された。仮設のスマートフォンの充電施設なども設けられた。

 今回の火災を受けて多くの香港企業が寄付を表明したほか、市民からの寄付も多く、既に総額20億香港ドルが集まっている。屯門(Tuen Mun)の黄金海岸酒店(Gold Coast Hotel)や●湾(Tsuen Wan)の如心酒店(Nina Hotel)などのホテルも被災者用に部屋を提供している。加えて、香港政府も対応は早かった。支援者支援の基金に3億香港ドルを投入し、23億HKドルの基金が成立し、被災者の生活再建や住居復旧に充てる。被災世帯には1万香港ドル、遺族には20万香港ドルを支給すると発表した。房屋局(Housing Bureau)はユースホステル、中轉房屋(Interim Housing)、臨時收容中心(Temporary Shelters)などを活用して1800戸に上る緊急の住居を提供している。

 ●=草かんむりに全。

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