香港政府は5月31日、有料テレビ大手の「有線電視」に2028年5月30日まで無料地上波放送を許可すると発表した。テレビ局名は「奇妙電視(Fantastic TV)」で1年以内に放送を開始する。
長年、香港の無料地上波放送は無線電視(TVB)と亜洲電視(ATV)の2局体制だった。1975年には佳藝電視というテレビ局も開局したが3年で撤退し、香港政府は新しい地上波放送のライセンスを長年交付してこなかった。
その後、有料放送の「有線電視」「now TV」などが開局し、多チャンネル時代に突入したこともあり、香港政府は新しい無料地上波テレビ局のライセンスを交付することを決め、2013年に有線電視傘下の奇妙電視、now TVを放送している電訊盈科(PCCW)傘下企業、香港電視娯楽(現Viu TV)、香港電視網絡(HKTV)の3局が申請。最終的に奇妙電視と香港電視娯楽にライセンスを与えることを決めた。
当時、すでに試験放送を開始し、最有力視されていたHKTVに交付されなかったことから、香港市民がデモをする事態にまで発展した。結局、HKTVはインターネット、スマートフォンなどを使ったデジタル端末向けの放送を2014年11月から開始している。
一方、香港最初のテレビ局である長い間ATVは経営難に陥っており、香港政府は2015年4月にライセンスを更新しないことを決定し、2016年4月1日をもって停波が確定。香港社会に衝撃を与えた。その代わりに香港政府はViu TVに正式なライセンスを交付。ATVが閉局した5日後の2016年4月6日から放送を開始した。
今回、香港政府は奇妙電視にもライセンスを公式に交付した。奇妙電視は12カ月以内に広東語放送を開局させ、24カ月以内には英語放送も開始しなければならない。そのため奇妙電視は6年間で10億香港ドルの投資をする事を決めている。
番組の詳細はこれから明かされるが、広東語放送は70%が香港で製作し、ニュース、経済、エンターテインメント、スポーツ、映画、子ども向けの番組を放送する。残り30%は海外の番組の放送の購入などを検討しているという。英語放送は、ニュース、生活、経済といったものの番組を流したいとしている。
ただし、放送は電波ではなく専用のセットボックスを通しての放送となる。有線電視では有料放送を自社のケーブル回線を使って放送しているが、その自社ケーブルを使う予定という。その場合、ビルやマンションの店主が率先して工事をして視聴環境を整えるか、視聴環境が無い場合は、市民が個人的にセットボックスを購入する形になる。セットボックスの金額は500ドル前後になるのではないかと推測されている。奇妙電視では初年度は220万世帯に、6年後には240万世帯に設置させたいとしている。
これまで香港のテレビ業界はTVBの実質1強だったが、Viu TV、HKTVを含めた無料放送は4局体制となる。市民の間では「人口が700万人の香港で4局ものテレビ局が必要なのか」「過当競争に陥り、共倒れになるのではないか」との声も上がっている。
蘇錦●(グレゴリー・ソウ)商務・経済発展局長は「放送業界はよりクリエーティブな産業に発展する。競争が促され、番組にさらに投資されることから視聴者の番組の選択肢が広がるというメリットがある」とコメントしている。
●=木へんに梁。