香港の中環駅から歩いて数分のポッティンガー道(G/F, Thyrse House Nos.16 Pottinger Street Central,TEL 2618-0070)に5月10日、席数わずか15席のすし店「鮨中本」がソフトオープンした。板場ですしを握るのは中本正紀さん。北海道出身であるが、すし職人としての技を磨いたのは銀座で、江戸前すしスタイルで提供する。
薄い色の木目調でシンプルながらも清潔感がある印象に仕上げた店内は11席のカウンターとのれんで区切った4席の個室の全15席のみ。L字のカウンターは板前と客の距離を十分にとったゆったりとした造りになっている。
中本さんのすしは奇をてらったものや、香港向けに派手なプレゼンテーションをする類いのものではなく、ぶれがない王道の江戸前すしだ。シャリの量などは要望があれば調整することもあるというが、「最初の一貫は自分の思いでとにかく気持ちを込めて出す」という。「誰よりも上手に握る」このシンプルな思いをカウンター越しに力を込めて提供する。
香港では1日あれば日本から魚を届ける流通が整っているが、通常の店は営業終了後に香港や日本のサプライヤーに次の日に店に運んでもらいたいネタの注文をするスタイルが一般的だ。中本さんの場合はまず深夜1時頃に漁に出ている漁師と話をしている担当者と会話をする。漁に出る前にその日取れるであろう魚の情報をやり取りしたりし、3時間後に取れた魚の状態をまた電話で確認。実際に注文を最終確定するのは香港時間早朝4時になることもあるという。それだけ産地のネタにこだわる。懇意にしている業者が元々網元だった背景もあり、彼の縁がある淡路島、五島列島、三浦半島の魚を多く扱う。淡路島周辺はタイやタコ、白身の魚や夏場はアジなど、五島列島はウニ、サバ、ヒラマサ、トビウオなどいいものが入るという。タイを一本釣りしている漁師がいて、注文する数のタイをきちんと釣ってくれる漁師の現場に同行したこともあるというこだわりようだ。
タコは大根でたたいて柔らかくなるように処理したり、コハダは長時間ゆっくり酢をしみ込ませたりすることによってちょうどいい酸味に調整するなど、長く続く江戸前の技と中本さん自身の工夫をすしに込める。
すしで提供する米は1日に2升炊くという。通常7割程度削る米を同店では8割程度まで削って精米し、さらに炊き上げたものの窯に近い部分は使わない。「すし屋が路面店がもともと多いのも、米は1階分でも変わると気圧も変わるので、炊き上がりも変わる」と細かなことにも気を配る中本さん。
メニューはランチもディナーも全て「おまかせ」のみ。ランチは握り10貫、巻物、おわん、デザートが450香港ドル~780香港ドルまで3種類を用意、ディナーは15貫、巻物または手巻きの「清」で1,100香港ドル、先付け、刺し身2種、煮タコ、季節の一品、珍味、握り10貫、おわん、デザートの「明」が1,580香港ドルなど、全部で4つのおまかせコースを用意する。
営業時間は、ランチ=12時~15時、ディナー=18時~23時。