
オンライン旅行サービス大手Trip.comが9月5日、香港国際空港(HKIA)を経由する国際線乗り継ぎ客を対象にした「免費中轉遊(無料乗り継ぎツアー)」を始めた。香港国際空港での乗り継ぎ時間が7時間以上ある旅行者に、香港の文化や景観を短時間で体験できるツアーを無償で提供するもので、同社が上海や北京で展開してきた同様のサービスの香港版となる。
Trip.comグループの孫潔(ジェーン・サン)CEOは「旅の価値は目的地に到達することだけでなく、全ての瞬間を特別な体験に変えることにある」と語り、乗り継ぎ時間を「旅の一部」として再定義する意義を強調する。
香港空港管理局(AAHK)の張李佳蕙(ヴィヴィアン・チャン)行政総裁(CEO)も「乗り継ぎ時間を文化体験に変えることで、香港の魅力を世界に発信し、国際ハブとしての地位をさらに高めたい」と話す。
無料ツアーは現在3種類を用意。香港ディズニーランド近郊の自然と歴史を巡る「自然秘境 湖畔與離島探索之旅(Serenity & Stories)」、深水●のローカルマーケットと黄大仙廟(びょう)を訪れる「懷舊足跡 老香港半日遊(Heritage and Local Lifestyle Citywalk)」、西九文化地区とビクトリアハーバーの夜景を楽しむ「港灣魅影 維港藝術夜遊(Victoria & West Kowloon Waterfront Journey)」。いずれも英語ガイド付きで送迎も付くため、移動の心配はない。さらに、有料プレミアムツアーとして、ランタオ島の大仏やタイオ漁村、ビクトリア・ピークなどを巡る3コースも用意した。出発前日の正午までに予約が必要で、6人以上で催行する。
Trip.comのスマートフォンアプリまたは公式サイトを通じて予約できるが、香港国際空港の乗り継ぎカウンター(E134・E135)や入境ホールAエリアに専用サービスカウンター(A03・A04)を設け、当日の登録も受け付ける。
入境審査完了後、旅行者は同社の専用サービスカウンターでガイドと合流。乗り継ぎツアーは1グループ最大20人まで参加でき、所要時間は約4時間。空港送迎サービスもある。全ての参加者には、ツアー終了後に空港のファストトラック通行証を発行し、スムーズに制限区域へ戻り、次のフライトへと乗り継ぐことができるようにした。
香港旅遊業議会(TIC)の関係者は「乗り継ぎ客はこれまで空港内で過ごすだけだったが、こうしたサービスによって街に足を運ぶ機会が生まれる。地元の飲食店や文化施設にも波及効果が期待できる」とコメントを寄せる。特に深水●や西九文化地区など、観光地としては未開拓だったエリアへの誘導が地域活性化につながると評価されている。
香港政府観光局(HKTB)も「短時間でも香港の多様性を体験できるツアーは、再訪意欲の喚起にもつながる。乗り継ぎ都市から『目的地』へと進化するための重要な一歩」と述べ、都市ブランド戦略の一環として位置づける。
香港国際空港はアジアの主要ハブ空港の一つとして、世界中の航空ネットワークの中核を担う。地理的には東南アジア、中国本土、北東アジアを結ぶ「絶好の」位置にあり、乗り継ぎ効率の高さと空港施設の充実度から、国際線利用者の評価も高い。実際、香港空港は国際貨物取扱量で世界トップクラスを維持しており、旅客・物流の両面でアジアの玄関口としての機能を果たしている。
ハブ空港としての利点は、乗り継ぎ便の効率化だけでなく、空港周辺の経済活性化にもつながる。空港内の店舗収入や着陸料の増収、さらには観光・宿泊・交通インフラの利用促進など、都市全体の経済波及効果も期待される。同社の取り組みは、こうしたハブ機能を観光資源として活用する新たな試みで、香港の都市戦略とも合致している。
同社による北京・上海での類似ツアーには、すでに1万4000人以上が参加しており、香港での展開はアジアの乗り継ぎ拠点としての競争力をさらに高めるきっかけになると見られる。
●=土へんに歩。