香港の大衆食堂「茶餐廳」に迫る体験型の企画展「茶記百科-看不到的設計學」が3月13日、啓徳駅直結ショッピングモール「のAIRSIDE 」内GATE33 Gallery(SHOP 312)で始まった。
「茶餐廳」は世代を超えて香港市民の生活に溶け込むが、そのデザインや美学に込められた文脈が日常にあまりにもなじみすぎて見過ごされがちなことから、「見えないデザイン」を掘り起こす展示として企画された。茶餐廳には香港人のDNAである「効率」「合理性」「柔軟」、その一方で表面的には笑みが少なく雑な「人情」が詰まっており、「香港らしさ」を感じることができる場所になっている。
同展は、建築史家で英国建築士の黎雋維(Charles Lai)さん、プロダクトデザイナーの陳韻淇(Kay Chan Wan Ki)さんらがキュレーションを担当。建築家、デザイナー、職人、映画人、料理人など多分野のクリエーターが参加し、茶餐廳の空間設計、グラフィック、食器、厨房(ちゅうぼう)ワークフロー、映画表現などを7つのゾーンで研究成果として提示する。
さらに、家具職人、写真家、ライター、映画人、料理人、香りのデザイナー、ネオンサイン保存活動家など、十数人規模の多様な専門家が関わった。それぞれの専門分野から茶餐廳を「空間」「家具」「食器」「映画」「匂い」「料理」といった多角的な切り口で再解釈し、来場者に体験型で提示する。
第1章「甚麼是茶餐廳?(茶餐廳とは何?)」では、灣仔の老舗「新豐記」のネオンサインや「玉壺冰室」の1951年開業申請書類などの歴史的資料を展示。香港独自の書体とネオンサイン職人技の関係性を示す。
続く第2章「茶餐廳的空間設計與視覺特色(茶餐廳の空間設計と視覚的特徴)」では、上環の「海安●●室」の看板や家具を再現し、地域社会との結びつきや職人の工夫を紹介。北欧デザインを香港流に縮小し、地域素材で仕立てた椅子やテーブルは、地場産業の創意工夫を物語る。最近はデジタル化するところもあるが、もともと茶餐廳では、店員がオーダーを凍檸檬茶(アイスレモンティー)であれば「冬OT」、熱檸檬(ホットレモンウオーター)であれば、「O水」、●茶(ミルクティー)であれば「及T」など、暗号のように略語でオーダーシートのけい線をはみ出して書きなぐる姿も日常で、改めてこれらの略語も貼り出した。
さらに、来場者が電話注文を受けて独特の略語で記録するシーンを体験したり、制服を着て厨房に立ち、秒単位で料理を作る「厨房体験」もできたりするようにした。茶餐廳の効率性と独自のサービス文化を体感できる仕掛けだ。
第3章「重新認識茶餐廳的水●與器皿(茶餐廳のドリンクカウンターと器具を再認識)」では、色彩豊かなメラミン食器や麦芽模様のテイクアウトカップなど、香港の工業遺産と結びついた食器の進化を展示。時代の変化とともに、カップの持ち手やポットの注ぎ口なども進化してきた様子が分かる。茶餐廳に必須の飲料調製スペースで、ミルクティーや鴛鴦(コーヒーと紅茶のブレンド)、レモンティーなどを素早く提供するための作業場「水●」は「茶餐廳の効率性」を象徴する場所だが、店内の細部にも焦点を当てた。
第4章では「茶餐廳之科學(茶餐廳の科学)」として、卵料理をテーマにコーナーを作った。柔軟で多様、そしてカスタマイズ可能な食品は、茶餐廳の核心の一つ。「卵」を素材に、卵液の分量比率と他の材料との組み合わせによって生み出される多彩な料理を紹介する。
来場者は人気の●頭飯(ワンプレートご飯)をポストカードにスタンプで重ね押ししながら、調理過程を楽しむこともできる。「●位(ボックス席)」に腰掛け、香り装置のボタンを押すと、料理や飲み物の香りが噴出する仕掛けも。●油鶏脾飯(醤油鶏ご飯)、ミルクジャムトースト、ミルクティーなどの香りが広がり、視覚と嗅覚を通じて、茶餐廳の繁忙時間の光景を想像できる仕掛けにしたという。
若手シェフやデザイナーによる現代的解釈も見どころで、BXCやCACAOLABなどが茶餐廳メニューを再構築し、建築家のライさんやStudio RYTEの張天朗さんらが床タイルや家具を新しいデザインで見せる。映画美術監督の文念中さんらが、1980年代以降の香港映画における茶餐廳の役割を解説するほか、菠蘿包や鴛鴦茶をモチーフにしたぬいぐるみやラグ、チョコレートなどのグッズも販売する。
ギャラリー担当者は「茶餐廳は、洋食と中華を融合させた独自の食文化を育み、都市生活の効率性と温かみを同時に体現してきた。香港人にとって身近すぎる存在。だからこそ、その背後にある文化的意味を改めて感じてほしい」と話す。
開催時間は12時~20時(金曜~日曜は11時~21時)。3月31日までは無料公開、4月以降は入場料20香港ドル(3歳以下無料)。7月31日まで。
●●=口へんに加、口へんに非、●=女へんに乃、●=口へんに巴、●=石へんに葉の下部、●=上かんむりに下、●=豆へんに支