林鄭月娥(Carrie Lam)行政長官など政府高官は5月31日、合同で記者会見を行い、「全城起動 快打疫苗(Early Vaccination for All)」と題し政府が主導してワクチンの接種を促すプロモーションを展開すると発表した。立法会議員や各政党なども接種率を上げるための提起をするなど、香港政府として新型コロナウイルスのワクチン数をしっかりと確保したにもかかわらず上がらない接種率の向上に躍起となっている。
香港は3日現在、累計感染者数が1万1,849人、死亡者は210人、3日の新規感染者はいない。一方、ワクチン接種者については、1回目が141万9065人、2回目も終えた人は104万7396人となっている。香港のワクチン接種は2月26日に始まり、約100日が経過したが16歳以上の人口から計算すると1回目の接種率ですら約2割と数値が高いとは言えない。
この背景には、2019年の逃亡犯条例改正案に端を発したデモから政治不信があること、重症急性呼吸器症候群(SARS)を経験したことから徹底した防疫対策を行ってきたことで域内感染も広がっていないためと考えられている。5月26日には実施してきた防疫対策を5月27日から6月9日まで2週間延長したほか、現時点ではイギリスやインドの変異株にも対応に成功。この結果、新規感染者も低いレベルにあるため市民がワクチン接種の必要性を感じていないことが挙げられる。
政府は5月18日、「外展接種服務(Outreach vaccination service)」として、一定の人数が集まれば医療関係者が企業などに赴きワクチンを接種するサービスを始めた。まずは建設業やコンサルティング会社などを対象にし、世界最大の会計事務所の一つ、デロイト・トウシュ・トーマツの香港支店ではこのサービスを利用して170人の従業員がワクチンを接種したという。
政府としては、さらに接種を加速させて経済をできるだけ通常に近づけたいという思惑もあり、8月末までの約3カ月間でワクチン接種を促進するプロモーションを実施する。食物及衛生局(Food and Health Bureau)の陳肇始(Sophia Chan)局長は「もし新型コロナウイルスの第5波が襲来すればワクチン未接種者に対し、レストラン、学校、寮、工事現場、図書館、博物館、映画館、各種表演場、スポーツ施設など感染リスクの高い場所への立ち入りを禁止する可能性がある」と、ある種の警告も行った。
接種を促進する方策とは、公務員にはワクチン接種の有給休暇を与えるほか、公衆での集まりを制限する「限聚令」の緩和、各種施設の収容人数や営業時間などの緩和、飲食店従業員などの人との接触が多い最前線で働いている人は定期的にPCR検査をしなければならないが、その検査を免除、集団免疫の獲得した後、香港外への観光旅行やビジネスでの往来の再開など、新政策と現在行っているワクチンバブル政策の一部の緩和なども盛り込まれた。国際金融センターとしての地位を維持するためワクチンを接種した金融機関の幹部が香港に入る際は政府指定ホテルでの強制隔離を免除する方向だ。
香港大手デベロッパーの新世界発展(New World Development)がワクチン接種のための2日間の有給休暇を与えるなど企業でも既に動きが出始めている。
香港鉄路(MTR)ではワクチン接種者500人を対象に1年間乗り放題となるパス(一部の路線を除く)の抽選会を行うと発表した。政府のプロモーションの発表に先立つ5月26日には機場管理局(AA)もワクチン接種対象者に航空券6万枚をプレゼントするラッキードローを行うことを明らかにしていた。
各議員や各政党からもワクチン接種を促進するための方策が提唱されている。飲食界選出の立法会議員の張宇人さんは5月29日、7月からワクチンを接種した顧客に飲食代を3割引とすることを提唱。既に関係者と話し合いを進めており、反応は好評だとしている。ほかにも、抽選で1等には現金500万香港ドルが当たる、住宅が当たる、結婚相手を紹介する、ワクチン接種1回ごとに2,000香港ドルを支給するなど、さまざまなインセンティブを付けたアイデアが提案されている。