香港政府の内閣に当たる行政会議が5月24日、大嶼山(Lantau Island)南部の開発計画「南大嶼生態康樂走廊(South Lantau Eco-recreation Corridor)」を批准した。
内容にはグランピング場や遊歩道などの建設などが含まれているが、現地を訪れる観光客がこれまでより倍増することが試算されていることから、オーバーツーリズムと環境破壊を懸念する声が市民から上がり始めた。政府は市民からの意見を7月下旬まで聴取する。
ランタオ島の開発は「南大嶼生態康樂走廊」のほか「北大嶼生態康樂走廊(South Lantau Eco-recreation Corridor)」、「郷鎮地区改善(Rural Township Improvement)」、「遠足枢紐(Hiking Hub)」など大きく分けて5つの開発プロジェクトから成る。南ランタオを開発する「南大嶼生態康樂走廊」は2020年に計画が発表され、さらに研究が続けられてきた。このエリアは、北部にある東涌(Tung Chung)と比べると自然が多く残っているエリアで、500種類もの植物が生息しているといわれる。この自然を生かした開発することで香港の新しい観光スポットにし、地域経済を活性化させたうえで環境保護意識を高めたいという狙いがある。そのため、逆に進入禁止エリアの指定も考えているという。
計画では、南ランタオ地区にある、貝澳(Pui O)、長沙(Cheung Sha)、水口(Shui Hau)、石壁(Shek Pik)の4地区を重点的に開発していく。まず、貝澳は「自然教育」を行うエリアとして開発する。森や海の近くに整備するプロムナードやグランピング場の造成を行う。現地には大きなテントを張り、その中にはベッドを置くなどして「ラグジュアリー感のあるもの」にし、手ぶらでキャンプを楽しめるようにする。
長沙は「レクリエーション・ハブ」として、ビジターセンター、ビーチ沿いに造成するプロムナードやキャンプ場、ボート、水上スキーなど水に関するスポーツレクリエーションセンターを設けるほか、イベントスペース、アドベンチャー施設などを整備する。
水口も「自然教育」がテーマで、教育センターと水辺に木製の散歩道を作る。石壁は「レジャー&レクリエーション」がコンセプトで、現地にある貯水池にぐるりと一周できる散歩道、芸術作品を設置する場所を設け、撮影スポット的な場所にする。
政府は、2022年は平均で4地区合わせて平日1日当たり2700人が訪れているが、これらの計画が実行されれば、これが4000~6000人に増加すると試算。それに伴い、「宿泊施設の建設も必要になるだろう」とする。
4地区の移動をスムーズにするためにバスの増便に加えEVのバスを採用するほか、駐車場とEV用の充電ステーションを増やし、南ランタオエリアの中心の道である嶼南道(South Lantau Road)に連接する歩道も整備する必要があるとしている。加えて、長沙には250メートルに及ぶ新たな桟橋を設けて、水上交通によるアクセス向上も視野に入れる。
これを踏まえ7月下旬まで市民の意見を募るが、既に環境団体の一部が「桟橋は長すぎてピンクドルフィンの生態に影響を与える」と指摘しているほか、住民も「急激な観光客の増加でオーバーツーリズムとなり、地元住民の生活が脅かされかねない」と懸念を示しており、最終案については、まだ不透明な状態となっている。