2018年に香港初の本格クラフトジンとして発売した「パフュームツリーズジン(白蘭樹下)」を主力とする丹丘蒸留所が9月30日、香港・中環で会見を開き、「北海道上川郡東川町との連携によるウイスキーとジン蒸留所開設」を正式に発表した。
パフュームツリーズジンは、米「SIP アワード」、英「ワールド・ジン・アワード」などの競技会で最高賞を獲得し、香港のバー、レストラン、ホテルで広く流通するほか、現在、シンガポール、台湾、英国でも展開している。丹丘蒸留所は、香港郊外の●湾(Tsuen Wan)にあるThe Millsに本社機能と、イベントスペースを兼ねた試飲室を置いている。
発表会には、多数の香港メディア、飲食業界、スピリッツ業界関係者らが集まり、丹丘蒸留所の共同創業者であるバーテンダーのキット・チュンさんと蒸留家のジョセフ・チュンさんが登壇。東川町での建設内容と進捗(しんちょく)、丹丘蒸留所にとって初の試みとなるウイスキー製品の独自製法、たる単位での販売などを中心に、プロジェクトの概要を紹介した。
東川町への進出を決めた背景として、キットさんは「1985年以来『写真の町』を名乗り、自然とアートやデザイン、人とのつながりを重視し、日本初となる公立の日本語学校を設立して留学生を誘致するなどの積極的なまちおこしを続けてきた先進的でオープンな視点を持つ町であることや、外資企業である丹丘蒸留所に対しても、事業内容を偏見なく検討する公平性があったこと」を挙げた。自然豊かな大雪山国立公園の一部に位置することから、全国でも珍しく、上水道を持たず、雪解け水を水道水として利用している。そうした水をスピリッツ造りに生かすことができる恩恵にも期待を込める。
2023年以来、東川町に常駐しているジョセフさんは、建設現場の近況写真とともに、敷地面積1834平方メートル、床面積507.96平方メートル、建設予算約5億円を「公設民営」形式で、東川町と丹丘蒸留所がそれぞれ負担するスキームを説明した。
製法としては、コンピューター制御による精密な蒸留を可能にするオランダ製新世代蒸留器iStillや、使用済みマッシュ(粉砕した麦芽と熱湯が混ざった液体)から効率良く水分を取り除き、栄養価の高い残りかすの再利用を容易にするアメリカ製マッシュフィルターなどの先端技術を取り込む一方、日本で受け継がれてきたみそやしょうゆなど大豆製品に使われてきた伝統的な木おけによる発酵工程を組み合わせるなど、独自のスタイルを確立していることなども説明した。
現在、ウイスキーの試作が進んでおり、その味わいは「パイナップルやマンゴーなどのようなリッチなトロピカルノートのある甘味がまず出て、その下地にはかすかなモルトの風味が感じられ、ほどよいバランス感があり、フィニッシュは長くスムーズで、温かみのあるアフターテイストが残る」とジョセフさん。
今回のイベントでは、最近世界のウイスキー業界でトレンドとなっている「たる買い」に関しても、丹丘蒸留所が販売方法として進めていることを強調した。ウイスキーは蒸留後に熟成させるたるによって、異なる個性が生まれることで知られる。丹丘蒸留所では、国産の最高級木材で希少なミズナラだる20個、スペイン産のシェリーだる30個、アメリカ産バーボンだる125個を確保し、3年間の熟成を待たずして所有権を購入する先行販売も行う予定。
蒸留所完成時には、香港からの観光客を東川町に誘致すると同時に、東川町の知名度を国際的に高める役割を丹丘蒸留所が担うことを約束している。東川町由来のボタニカルを使った東川クラフトジンも現在開発中だという。
建設は順調に進んでおり、2025年上四半期の完成と操業開始を目指す。
●=草かんむりに全。