香港政府衛生署は11月1日、一部の新薬登録において香港当局以外に香港外の当局の認証を必要とする制度「1+」の承認プロセスの簡略化を、ワクチンなどを含む全ての薬に対象を拡大した。これにより世界中の新薬が香港で迅速に承認されるようになり、患者にとっての選択肢が増えることになる。
香港においては、新薬を流通をさせる前に、安全性や有効性、品質などについての定められた基準をパスするには「香港藥劑業及毒藥管理局(Pharmacy and Poisons Board of Hong Kong)」の批准を受ける必要がある。これまで、香港で薬を販売する場合、香港以外の2カ所の薬品規制当局による認証を用意しなければならなかった。そのため、長期間の臨床試験のデータなどといった大規模なデータ収集などが行われていた。
2023年11月より、重篤または希少疾患の治療用新薬において香港で登録申請するには、香港内での臨床データの裏付けが必要になったほか、新薬の使用に適しているという香港の専門家らからの「お墨付き」も必要になる。一方で海外の規制当局の承認は2カ所から1カ所に削減された。そうした背景から「1+」とのスキーム名で呼ばれている。迅速に審査が行われるほか、香港での臨床データが採用されるため、香港の地域性や医療ニーズに適した薬が流通することになる。医院管理局(HA)によると、2021年~2023年の新薬承認にかかる時間の中央値は20カ月で、他国の平均より長いという。
今回、「1+」のスキームが全ての薬に採用されることになった。これにより、患者は世界で行われている最新の治療を受けられるようになるほか、選択肢そのものが増えることになる。また、承認プロセスの簡素化により新薬の開発を効率よく行えるようになることや外国の製薬会社が香港に拠点を構え、臨床試験や商品販売することなどが考えられる。既に海外や中国本土の製薬会社80社から260件以上の問い合わせがあるという。
このプロセスにより、既に転移性大腸ガン用の治療薬2品目、発作性夜間血色素尿症向けの治療薬1品目、副甲状腺ガンと原発性副甲状腺機能亢進(こうしん)症を患う患者における高カルシウム血症用の治療薬2品目の合計5品目の新薬が承認された。
香港には既に一定程度の日本の薬が香港の薬局で流通しているほか、香港人観光客が来日した時、頭痛薬や風邪薬を購入するなど、日本の薬は香港人からの信頼が高い。今回の措置により、日本の製薬メーカーが自社で抱える薬を香港市場向けに新薬として登録しやすくなった。
その先には人口約8600万人の「粤港澳大湾区(GBA)」という巨大市場が控えており、この制度がうまく機能すれば、治療薬の価格低下にも寄与することが期待されている。