
香港の炮台山駅からほど近くにあり、100年以上の歴史を持つレンガ造り「油街實現」(12 Oil Street,North Point)で現在、日本人コンテンポラリーアーティスト豊福亮さんの作品を含む3人の個展が開催されている。同展は3月末に始まったもので、許方華さんと王浩然さんの個展も同時開催する。
ギャラリーの様子、同施設の植物からインスピレーションを得た作品も
「油街實現」は1908年に建てられ、1938年までイギリスローヤルヨットクラブとして役割を果たしていたレンガ造りの施設。規模は大きくないが、炮台山に芝生とレンガの特別空間を設け、市民の憩いの場として利用されている。
豊福さんにとって香港での個展開催は初めてで、「豊福亮的黄金之境(The Golden Realm by Toyofuku Ryo)」のタイトルの下、「黄金の茶室」を備え、床は白い砂利を敷いた。「日本の伝統的な枯れ山水をほうふつとさせるもの」だという。金色の輝きを放つ茶室の内部には、路面電車、ファイヤードラゴン、海鮮屋台のほか、作家が好きな香港の食である叉燒、菠蘿包、燒鵝などをモチーフに描いた213点の絵画を飾る。靴を脱いで実際に茶室の中に入ることもでき、香港を象徴するアイテム一点ずつについて思いをはせることができるように工夫する。
グランドフロアのスペースには昔のボードゲームなども置き、アーティストの創り出す空間に浸り、他の人々と交流し、関わることができるように工夫を施す。「黄金の領域」という包括的なテーマで統一した2つのインスタレーションは、「日本の美学と地域横断的な文化的要素を取り入れた空間」で、独特の視点から日常生活を考察する没入型の体験を来場者に提供する。
クロスメディアの創作と研究に専念する香港のアーティストである許方華さんは、アートとテクノロジーを融合させ、インスタレーション「像極了花園(The Garden of Resemblances)」を展開。16世紀の中世ヨーロッパの医学では、医師たちは植物の観察を通じて診断や治療に役立てていた。その後近代生物医学と科学的アプローチの中で考え方は変化してきたが、今なお特定の伝統療法や自然療法の基盤となっている。この概念を「藥效形象説(署名の教義)」というが、ここからインスピレーションを得た許さんは、人間と植物のフォルムの類似性を注意深く観察し、有機的な要素と人工的なメカニズムを組み合わせ、現実と幻想の間の曖昧な状態を作り出した。呼吸する高麗人参、目のあるタマネギ、歯のあるザクロなど、遊び心ある作品は、自然、テクノロジー、イマジネーションの境界を曖昧にさせた。同施設の植物からインスピレーションを得たものもあり、例えば、「石榴神話與糖衣陷●(ザクロ神話はロマンチックなうそ)」という作品のアイデアは、施設の庭に植えられているザクロの花に由来する。作品「●●在想●」の緑の芝生は、施設内の芝生と呼応させ、亡くなった親族への思いを表現している。
国際的なコンテンポラリーアートシーンで活躍する王浩然さんは「來自香港的愛(With Love from Hong Kong)」を開催。いわゆるアメリカの昼ドラ的な位置付けのソープオペラの物語からインスピレーションを得た王さんは、1980年代に香港からシカゴに移住した祖母の体験を、中国の寓話(ぐうわ)のシーンと組み合わせて、再現した2本の短編ビデオを制作した。同施設のセットも再構築し、来場者をかつての家庭環境や路上屋台だった大排●時代にタイムスリップさせる。「愛、都市、人間のつながり」をテーマにしたものだという。
開催時間は10時~20時。(茶室の開放は月曜日=14時~17時/17時30分~20時、火曜日~日曜日=10時~13時30分/14時~17時/17時30分~20時)入場無料。8月31日まで(豊福さんの展示のみ8月17日まで)。
●=こざとへんに井、●●=にんべんに愉のつくり、●=にんべんに尓、●=木へんに當。