
香港鉄路(MTR)は10月3日、元朗水尾路の工事現場で起工式を行い、北環線(Northern Link)プロジェクトが正式に始動した。北環線は、香港北部都會区の都市開発を支える重要な交通インフラとして位置づけており、同社は香港特別行政区政府と連携し、2034年までの主線と支線の同時開通を目指す。
香港北部都會区(北都)は新界北部に位置する広域都市開発構想で、住宅、商業、産業、環境保護の各分野を統合した持続可能な都市モデルを目指している。政府はこの地域を「香港の第二の経済エンジン」と位置付け、将来的には約250万人が居住する都市圏として整備を進めている。深センとの地理的近接性を生かし、越境経済、イノベーション産業、スマートシティー開発などを重点分野としている。
北環線の整備は、香港市場に対して多面的なメリットをもたらすと期待されている。不動産市場の活性化の観点では、鉄道アクセスの向上により、北都の住宅地や商業地の価値が上昇し、新規開発プロジェクトへの投資が促進される。次に、越境ビジネスの強化が進む。深センとの接続が強化されることで、香港企業の中国本土市場へのアクセスが容易になり、物流・人材交流がより加速していく。
さらに、交通インフラの整備により企業誘致が進み、地元雇用の創出につなげたいとする。特にIT、バイオ、グリーンテックなどの新興産業にとって魅力的な拠点に位置づけていく可能性が高い。観光・消費の面でも、新駅の開業により観光客の流入が増え、周辺地域の消費活動が活性化。小売・飲食業などのサービス産業にも好影響が及ぶと見られる。
北環線は、既存の東鐵線と屯馬線を接続する環状鉄道として機能し、香港新界と九龍市街地を貫通する新たな交通動脈となる。支線は香港と深センをつなぐ主要な通関ポイントである皇崗口岸に直結し、今年中に完成を予定する税関手続きが簡素化される「一地両検」方式による迅速な通関を可能にすることで、香港と中国本土との越境移動の利便性を大幅に向上させる。これにより、北都の新興住宅地や商業エリアへのアクセスが強化され、地域経済の活性化が期待されている。
起工式が行われた元朗水尾路は、今後、トンネル掘削機の起動井戸が建設される予定。式典には、MTRの歐陽伯權主席、金澤培行政総裁をはじめ、香港政府運輸及物流局の陳美寶局長、路政署の邱國鼎署長、中央政府駐港聯絡弁公室新界工作部の王卉副部長など多数の政府関係者や立法会議員が出席し、プロジェクトの始動を祝った。
陳局長は式典で、「北環線は北都の基幹インフラであり、地域の人流を支える運輸動脈として、各開発地区に養分を供給する役割を果たす」と述べた。さらに、「北環線の整備により、鉄道網のカバー率と柔軟性が大幅に向上し、香港全体の交通効率が高まる」と強調した。
港鐵公司の歐陽主席も「北都は香港の新たな成長エンジンであり、鉄道はその発展を支える中核的な存在」と語り、プロジェクトへの強い意気込みを示した。「古洞駅(東鐵線)と洪水橋駅(屯馬線)の建設も順調に進んでおり、2034年までの主線・支線の同時開通に向けて、革新的な技術と効率的な管理を活用しながら工事を推進していく」と述べた。
北環線は、港鐵が現在推進している複数の鉄道プロジェクトの中でも最大規模のもので、複雑な地質条件や新開発地区での施工、既存駅との接続など、多くの技術的課題を抱えている。港鐵と特区政府はこれらの課題に対して協力体制を構築し、主線と支線の設計・施工を並行して進めることで、プロジェクトの相乗効果を最大限に引き出す方針だ。
現在、古洞駅の建設は順調に進んでおり、2025年11月には構造上の主要工程が完了する予定。2027年には開業を迎え、港鐵の100番目の駅として、古洞北新開発区の交通需要に対応していく。北環線の整備は、香港の都市構造を根本的に変える可能性も秘めており、今後の地域発展や越境経済の促進において重要な役割を果たすことが期待されている。