尖沙咀のハーバーシティで現在、ニューヨーク在住日本人アーティスト松山智一さんの中国・香港地域で初の個展「Sky Is The Limit」が開催されている。
同展はハーバーシティー入り口付近とギャラリーの2カ所を使って展開され、ハーバーシティ入り口には同施設過去最高の高さとなる6.5メートルに及ぶ彫刻がそびえ立つ。同作品は鉄を使い鏡面仕上げを施したもので、企画の構想段階から含め約1年半をかけて作られたもの。
松山さんの作品の特徴である平面と立体の両方の要素を組み込むだけでなく、一つの作品にナポレオンが馬に乗り、右手を振りかざすダヴィッドの名画「アルプスを越えるナポレオン」、葛飾北斎の馬に乗り疾走する武士の様子、特に欧米で愛される玩具の「プレイモービル」、そして漫画「遊戯王」などさまざまなモチーフを集め、つなぎ目を溶接して一つの作品に溶け合わせた。「ナポレオン」の姿をそのままの角度で使わずに同じ構図のまま角度を変えることで、掲げた右手が空を指し、タイトルの意味に込められた「可能性は無限大」を表しているという。アートにおける東洋と西洋の成り立ち、精神性、技法の違いなどの要素を一つにまとめることで「21世紀のアイデンティティー」というメッセージも含んでいる。
展示はオープンスペースだけでなく、柱や壁面、階段を使い展開され、松山さんのグラフィックデザイナーとしての経歴が垣間見え、万華鏡で見える世界のような華やかな作品が並ぶ。壁面はライトボックスになっているため、夜間には鮮やかな色彩が光を放ち、通行人の形が黒いシルエットとなって浮かび上がるような工夫も。
「今回の大型モニュメントは同展のために制作した」としながらも、施設に合わせて作品を作るのではなく「自分の表現したいものを造った」と話す松山さん。「香港人にとっては商業施設の入り口にすぎないかもしれないが、特に海外のアーティストたちの間ではこの場所は有名で、数々の著名アーティストが憧れるこの場所で披露できることがうれしい」と続ける。
構図をそのままに現代風にアレンジする作品は、館内のギャラリーでの展示にも表れている。形状が定番の四角ではなく丸のものが並べられたり、両側の壁の作品が呼応するように互い違いに適度な間隔で作品が配置されたりと、細部にまで神経を使って展示される作品群について「分かりやすく、面白おかしく伝えることが重要」と笑顔で話す松山さん。自身の作品だけでなく、現代のアートシーンや西洋と東洋の違いなどを淡々と分かりやすく解説するなど「アートを通じてさまざまな現象を翻訳する人」としての一面ものぞかせる。
ギャラリーでの展示は11時~22時。9月9日まで。