九龍・佐敦エリアの繁華街・ネーザンロード沿いにある中華料理店「新楽酒楼」(G/F, Shamrock Hotel, 223 Nathan Rd, Jordan Tel: 2735 6722)が3月末で閉店し55年の歴史に幕を下ろすことになった。多くの香港人が閉店を惜しみ、足を運んでいる。
魚の腸や卵、中華風揚げパンをオーブン焼きにした「●仔●魚腸」(128香港ドル)
同店は1960年にオープンしたシャムロック(新楽)ホテルの1階(グランドフロア)に位置し、同じ名前で看板を出す「新楽酒楼」は個人経営の中華料理店。ホテルの数が指で数えられるほどしかなかった60年代当時、新楽ホテルは高級ホテルとして多くの外国人や海外に住む華僑に愛されていた。その理由の一つに新楽酒楼の存在があり、フカヒレやアワビなど高級食材で富裕層やセレブたちに愛されていたという。手頃な値段と伝統的な中華料理の味で数多くの困難に耐え、客の心をわしづかみにしてきた同店だが、80年代になるとレストランが続々と増え、90年代に入ると洋食や和食が普及し、それまでの香港の飲食文化に新風を吹き込んだため、伝統的な中華料理の価値が薄くなってきたという。さらに1997年のアジア通貨危機やその後2003年のSARSの影響で新楽酒楼を訪れる客数が一気に下がり苦しい時代もあった。
今回の閉店理由は、賃金を含めた物価の高騰だという。「観光客が行き交うこの立地だから、閉店するのは時間の問題だった。本当は昨年10月までだったが、延長してもらって今年の3月末まで営業する予定だ」と話すのは莫さんの娘のオーナー、アニータさん。「賃金が倍どころか3倍に近く跳ね上がってしまっては、利益へのインパクト大きすぎて閉店するしかない。何十年も支えてくださってきたお客さまに申し訳ない」と話す。「父の意思を貫いていきたいので、今は同じエリア内の物件を探しているが、今後また値上げされるとなると経営上の損益が狂うため継続できるかどうかまだわからない」とアニータさん。賃料を抑えるため、店舗面積を現在の3分の2に減らし、路面店ではなく2階の物件を探すなどしているようだ。
同店は昼の時間帯は飲茶、夜の中華料理を提供する。点心はシェフ歴30年のベテラン職人による手作りのもので、中でも透き通った皮で弾力のあるエビを包んだエビギョーザ(32香港ドル)や炭火コンロで焼きたてのチャーシューで作ったチャーシューまん(17香港ドル)が人気。夜の中華料理は、3月末までセットメニューの「懐旧宴」(1,680香港ドル/6人用、2,880香港ドル/12人用)を提供し、昔ながらの料理を再現する。サザエや魚の浮袋、豚肉、干し貝柱、シイタケなどさまざまな食材を使い6時間煮込んだスープ「古法仏跳牆」やエビのすり身を食パンにのせてカリッと揚げた「香脆蝦多士」など、手間暇かける昔ながらの料理を提供。セットメニューの内容をアラカルトで注文することや人数に合わせて調節することができるのも老舗ならではの心遣いだ。
営業時間は7時~22時30分。