上方落語界きっての異彩を放つカナダ人落語家、桂三輝(かつらさんしゃいん)さんが5月11日、ホテルアイコン(Hotel ICON)で、香港理工大学の学生80人を対象に演目を披露した。
主催は香港理工大学。同大学が経営し、観光学部の学生がインターンシップとして勤務する同ホテルの特別セミナーとして開催された。
桂三輝さんは上方落語界で6代桂文枝(当時桂三枝)さんの元に弟子入りし、日本で修業を重ねた後、広く海外に落語文化を伝承しようと、今年はワールドツアーで世界中を駆け巡っている。今年はオーストラリアを皮切りに、カナダ、アメリカを回り、スコットランドでは長期公演を実現させる。英語を中心に複数の言語を操りながら、日本語で聞いていると錯覚するような口上で観客を笑いの渦へと誘っていく。
イベント会場は大学構内の大教室のようなスペースだったが、正面中央には赤い布が掛けられた高座が用意され、横のめくり台には「桂三輝」と墨で書かれた演者名が表示されるなど、日本に近い環境が用意された。三輝さんは当初、寄席スタイルでやりたいという希望を持っていたこともあり、高座に上がり観客の様子を見るまでは演目を決めずに臨んだという。
また、同イベントでは日本酒セミナーとしてテイスティングなどをする時間もあり、酒サムライの百瀬あゆちさんの解説のもと、落語一席と酒テイスティングなどが交互に組まれる香港らしいテンポ感ある進行となった。落語は時々笑いの波が訪れ、満足感で満たされたためか個別の質問などが出なかったことと対照的に、酒に関しては「酒のタイプ」や「カクテルと相性の良い酒」についての質問のほか、「焼き鳥と合わせるのに適した酒」や「酒の銘柄の由来」など多岐にわたる質問が相次いだ。
三輝さんは初の香港公演を経て「広東語を勉強した方がいいかなと思うぐらいに香港が好きになった」と話す。着物で街を歩けば遠慮なく話し掛けられることや、演目を披露する機会をうかがえば数カ月で実現にこぎ着けるスピード感に好感を持った様子。「笑いのツボは日本人とまったく同じ」と振り返り、400年続く落語文化はこの地でも必ず受け入れられるという確信を得たという。
香港では今回、同大学の公演のほか日本人倶楽部や和僑会など日本人を対象とした会もあったが、「日本人であっても外国人であっても関係なく、4歳~70歳までが一堂に集う会場もあった」と振り返り、日本語の落語を『RAKUGO』として世界に広めていくことをあらためて誓った。