9月26日から香港の高校生、大学生を中心に「真の普通選挙」を求めるデモが香港政府庁舎前で繰り広げられ、日本でもテレビや大手新聞社、通信社などが報じているが、そこでは報じられていない実情がある。
香港ではトップを選ぶ行政長官の選出に関して普通選挙の実施が大きな問題となっている。一般市民も立ち上がっているが、今回のデモは新年度が始まったばかりの生徒・学生が授業をボイコットしてまでデモをしているものだ。
もともと、香港政府が2011年に教科書の指導内容について愛国心を育成しようとするカリキュラムを作成したが「それは洗脳だ」として学生は反発。黄之鋒(Joshua Wong)さんなどを中心とした10代の学生が「学民思潮(Scholarism)」を結成し大規模なデモを展開した結果、香港政府は実質、撤回に追い込まれた。その後、中国政府は2017年に普通選挙を実施すると約束し、1人1票は認めたものの、民主派の立候補者を事実上排除する方式を決定。それに学生が反発した形だ。
大きな要素としては、今デモをしている学生が40代後半~50代の働き盛りの時に「1国2制度」が終わってしまうことへの懸念がある。彼らの親、祖父母の世代は中国から逃げてきた人たちが多いため、何か起こった場合、香港を去ることも厭(いと)わない。しかし、彼らは香港で生まれ育っており、香港を思う気持ちは上の世代よりずっと高い。
デモ現場では、一部の学生がフライングをして拘束されたり、逮捕者が出たりするなどの事態になったが、実際の彼らは非暴力で目的を達成することがの大事さをよく理解しているという。そのため警察などが何かアクションを起こした際は手を上げて行動することになっている。家族や支援者などから大量の水、マスク、食料が大量に持ち込まれていたほか、これがちゃんと参加者に行き渡るようになっていた。催涙スプレー対策ために食用品ラップフィルムと折り畳み傘もたくさん持ち込まれていた。たくさんのゴミも発生しているが、できるだ1カ所に集め、ゴミの分別が必要ない香港で分別収集さえしていた。スマホアプリのWhatsApp、LineなどのSNSを使って情報を共有。「これからこんなことがある」「こんなことがあった」「今、水が足りないから買ってきてほしい」など、今の若者らしくITを駆使。デモ集会中心部付近では導線をつくり人の流れをスムーズにすることで身動きが取れなくなることを防いでいる。シャワーを浴びにいったん家に帰り、再び現場に戻ってくるなど今どきの若者らしさも見られるほか、学生をサポートしたい大人や外国人の姿も見受けられた。
今回、催涙弾も使用されたが、最前線にいる警察官を見てみると、一部の学生とおじさんにヤジられているときは不快な顔をしているが、かなりの警察官は相手が学生や未成年であることから非常にやりにくそうだ。デモ隊の学生によると「若い私服警察官を紛れ込ませて、情報収集したり、学生を撮影したりしている」とも話していた。
戦後約25年後に起こった70年安保、先の3月に台湾で起こった学生による台湾の国会にあたる立法院占拠は、1996年に台湾の総統選挙が直接選挙で初めて実施されて18年目、香港の今回の学生デモも中国返還から17年。大きな出来事から約20年を経過するころ、民主というものが本格的に国民・市民に根付き、それが学生運動として現れているようだ。