香港大学と東京大学による共同プログラム「HKU-UTokyo Joint Summer Program」が8月2日~13日、香港で行われた。同プログラムは東京大学から園田茂人教授率いる17人の学生と、香港大学から中野嘉子准教授率いる10人の学生がビジネスリーダーに話を聞いたり、フィールドワークを行ったりするプログラム。今回で5回目となったが、これまでは比較的高学年の参加が多かったことに対し、今年は東京大学から1年生8人を含む20歳以下の学生が多く参加し、男女半々の構成も特徴的だった。
学生らは5つのグループに分かれ、期間中、それぞれが設定したテーマを元にフィールドワークを行い、香港大学の学生寮シュンヒンカレッジ(Shun Hing College)で寝食を共にしながら、最終日の発表に向けた準備を行った。語学力に加えプレゼンに慣れているという意味では香港大学の学生の方が秀でている部分もあるが、過去5回の間に東大生の英語力と積極性は飛躍的に伸び、分析力や極める力からしても負けてはない様子がうかがえた。
訪問プログラムでは、地元の高級スーパー「city‘super」をはじめ、JALのカーゴターミナルを訪れたり、ラーメン店の中でも進出が早かった味千ラーメンなどで話を聞いたりするなど、企業の姿勢を学んだ。講義では、在香港日本国総領事館の松田邦紀大使による講演をはじめ、パナソニックの総代理店である信興集團を率いるデイビッド・モン(Daivid Mong)会長の講演も設定された。急きょ香港大学の学長も参加し、香港のために家電がどのように形を変えて現地化されたかをテーマに、大きな冷蔵庫などの家電を間口が狭い香港で設置するためのノックダウン方式についての話が出るなど、会場も盛り上がった。
今年のハイライトは曾俊華(ジョン・ツァン)前財政長官による講義。100分の時間中、半分以上を質疑応答に割き、参加した学生が直接質問を投げかけた。自身が財務長官任期中の2017年までの10年間に一国二制度の下でどのような経済政策を施行してきたかに始まり、教育制度について、香港市場の特徴、ワインやアートなどでのハブになるための施策、例えばアルコール度数30%未満の酒類の酒税撤廃など刺激とインパクトある決断がより大きな収益をもたらしたことなどについて具体的な数字を挙げながら説明をした。
その後の質疑応答ではほぼ全ての学生が手を挙げるほどの盛況ぶりで、東大教養学部1年の氏家みおさんは「日本では、生活の苦しい人々が自分たちの望む支援を受けられず不満を持っていると聞くことがあるので、香港での格差に対する取り組みを聞きたい」と投げかけた。氏家さんは「ジョン・ツァン氏の話し方や声に強い信念や重みを感じた」と言い、理想を求めるだけでなく香港の現実をしっかりと見ている姿が印象的だったという。
最終日の13日には香港大学で各グループの発表が英語で行われた。今回のテーマは、ラーメン、おにぎり、家電、化粧品など幅広く、グループごとにプレゼンテーションを繰り広げた。「おにぎりがローカル化しているが、他の食のグローバル化と何が違うか」を考え、すしや焼き肉などの高価格帯のものは日本と近い形で現地になじんでいるのに対し、日本のものであっても価格が安いものについてはローカル度合いが強くなることを導き出すグループ、化粧品市場において美容機器の販売のマーケティングプランについて考察し、ビッグデータを活用してどのようにオンラインオフラインのマーケティングを実践しているかをまとめたグループ、ラーメンをテーマに日本人経営、日本ブランドを香港が運営するチェーン、完全にローカルの香港人経営の店を比較し、店内の言語やインテリア、メニューの構成、素材などを分析したグループもいた。
1年生、4年生にそれぞれ関わり方の違いがあったようだが、あるグループのチームリーダーを務めた東大工学部4年生の月岡航一さんは、同プログラムの意義について、「多様な業界の一流の方々から話をうかがえることは自分たちの視野を広げる良い機会。学年も専攻も違う国内外の学生とのグループ活動を通して人間的にも成長できるプログラムだった」と振り返る。月岡さんは今後、国家公務員としての道を歩むことになるというが、「今回香港の社会状況や課題、日本企業のアプローチについて学んだことは生かすことができると感じた」とも。
過去には東大生が同プログラムに参加することで、将来のキャリアの目標が海外へと視野が広がり、パリで生活を始めた卒業生、同プログラムで出会い晴れて結婚が決まった卒業生などほほ笑ましいエピソードまであり、さまざまなきっかけを作る同プログラムの次回開催は2年後を予定している。