コンクリートジャングルのイメージを持つ香港には実は自然が多く、多くのトレイルコースがあるが、沿岸部をぐるりと1周する全長65キロのトレイルコース「港島環島徑(Hong Kong Island Coastal Trail)」を整備しようとする機運が高まっている。
香港のトレイルコースは、中環(Central)から山頂(The Peak)まで登る簡単のものから、298キロを60時間以内で走破する世界屈指の難レースを組めるほどのコース「Hong Kong Four Trails Ultra Challenge」まで、幅広い難易度のコースが。香港の土地が開発できるのは全体の24%で、7割は丘、山などから成り、全体の4割が郊野公園(Country Park)とトレイルを整備しやすい地形的特徴がある。
香港で人気のサッカーもボール1つあればできる比較的垣根が低いスポーツだが、トレイルは高い運動能力が必ずしも求められるわけでなく、ハイキングであれば家族や友人と気軽にでき、かつ美しい景色を眺めることができることから、長年、香港市民の間で親しまれてきた。新型コロナウイルスが広がる前は年間数十ものトレイル関連のイベントが行われてきた。
時間をさかのぼると、1960年代、香港は社会的に不安定な時期で、香港政府はそれを解消する必要があった。当時、デイビッド・トレンチ(David Trench)総督はアメリカから自然保護の識者リー・タルボット(Lee Talbot)さんを招聘(しょうへい)した。タルボットさんは「1945年から65年までの20年間で香港の人口は600%も増え、香港市民には街からエスケープできる場所が必要」というリポートを作成した。その後、歴代総督の仲でも香港の発展に多大な貢献をしたことで知られるクロフォード・マレー・マクレホース(Crawford Murray MacLehose)総督が郊野公園の造成に着手。その中でトレイルコースが生まれ、数多く作られてきた。その中でも麦理浩径(MacLehose Trail)は全長100キロに及ぶトレイルとして知られている。
香港政府は現在、特に香港島北側沿岸について積極的にプロムナードを造成するなど開発を進めているが、南区区議会(Southern District Council)、中西区区議会(Central & Western District Council)、湾仔区議会(Wan Chai District Council)、東区区議会(Eastern District Council)の4つの区議会の代表が、香港島沿岸を1周する65キロのトレイル「港島環島徑」の開発を進めるよう共同動議をこのほど香港政府に提出した。
65キロの中には、滝、古墳、ビーチ、プロムナードなどがあり78ものスポットを作り、香港島を堪能できるルートになっている。ただし、ルート中の西湾河(Sai Wan Ho)には水警總区總部(Marine Police Regional Headquarters)があり、移設する必要があるほか、上環(Sheung Wan)にあるマカオへのフェリーターミナルを兼ねている信徳中心(Shun Tak Centre)は改修する必要があるなど、解決するべき課題も少なくない。1200人を対象にしたアンケート調査によると、この案については8割が支持しており、世論を背景に開発が進むかどうかが注目されている。