陳茂波(Paul Chan)財政長官は2月24日、2021-22年度の財政予算案を発表した。目玉は18歳以上を対象とした5,000香港ドルの電子マネーの給付。ワクチンの接種が2月26日に始まることなどから、香港政府は2021年の経済成長率を3.5~5.5%と強気の数字を予想したが、香港経済は外的要因にも大きく左右されるため、今後の香港経済がどのようになっていくのかは依然として不透明だ。
歳入は、所得税や土地収入などから合計5,911億香港ドルとなり、それに351億香港ドルのグリーンボンド合わせた6,262億香港ドルとした。一方、支出は7,278億香港ドルとなり、1,016億香港ドルの赤字となった。多額な新型コロナウイルス対策を行った2020-21年度は2,576億香港ドルの赤字だったことから、赤字幅は減少する。
財政備蓄は2021年3月末に9,027億香港ドルとついに1兆香港ドルを下回る見込み。中長期的には2022-23年度から2025-26年度まで経済成長率は平均で3.3%と見積もっているが、それでも年間で平均1,000億香港ドルの支出超過を見込んでおり、2026年3月末の財政備蓄は7,758億香港ドルにまで減少すると予想した。
2020年の経済成長率は新型コロナウイルスの影響が直撃しマイナス6.1%となった。失業率も2020年第4四半期には7%近くに達するなど、過去17年で最悪の数字を記録した。2021年は世界各地でワクチンの接種が開始されたこと、中国経済が復活したこと、アメリカ、日本、アジア各国の経済も今年は復調するとの予想から3.5~5.5%成長となると予測。ただし、「上半期においてはチャレンジングな経済環境だろう」としている。
歳出を分野別に見ると、社会福祉が1,056億香港ドル(シェア19.5%)、教育が1,007億香港ドル(同18.6%)、衛生には959億香港ドル(同17.7%)の御三家がトップ3で全体の55.8%を占めた。ただし今年度は、社会福祉が教育を逆転。新型コロナウイルスによるものと、高齢化社会という2つの要素がトップに押し上げた形となった。保安に544億香港ドル、インフラ整備が334億香港ドル、経済が223億香港ドル、環境・食物が220億香港ドルとなった。
個人を対象に見ると、18歳以上の永久居民に対して5,000香港ドルの電子マネーを支給するとした。前年度は1万香港ドルの現金だったが、今年は電子マネーとなった。有効期限を設ける予定で継続的に消費してもらうことで0.7%分の経済効果があるという。どのような形にして支給するのかは「複雑であり数カ月の準備期間が必要」と陳財政長官は語り、早くて夏ごろになると見られている。八達通(Octopus)を利用する方法も排除しないとした。所得税は、前年度は上限を2万ドルとして予定納税額の100%を減免していたが、今年は100%ではあるものの上限が1万香港ドルに減額される。香港政府に支払う土地のレーツについては上半期が上限を1,500香港ドル、下半期は上限を1,000香港ドルで免除する。住宅用の電気代は1戸あたり1,000香港ドルの補助金が付く。失業者に対しては、最大8万香港ドルを、返済期限を最長5年、年利は固定の1%という低利のローンを設ける。2022年に実施する進学受験テスト「香港中學文憑考試(HKDSE)」の受験料を無料にする。
法人では、事業所得税は、上限が個人所得税と同じく1万ドルを上限に100%免除する。商業登記費(Business Registration)の登記料が免除するほか、600万香港ドルを上限とした政府による100%保証の低利ローンも盛り込んだ。レーツは上半期が上限を5,000香港ドル、下半期は上限を2,000香港ドルで免除になる。住宅用途以外で使われているオフィス、工場などの水道代は2万香港ドルを上限に8カ月間、75%を補助する。
住宅では、2020-2021年度を起点に5年以内に10万1400戸の住宅を供給し、うち7万戸は公営住宅だ。民間の住宅は同じく2021年を起点に5年間で平均1万8000戸が完成する予定とした。新型コロナウイルス対策として3000棟の古いビルを対象に10億ドルの予算を組み、配管の修理や付け替えを促進する。
飲食と並ぶ壊滅的なダメージを受けた観光業界に関しては1億6,900万香港ドルの予算を付けて香港の文化や古跡などを巡るプロジェクトを支援する。香港政府観光局(HKTB)向けに7億6,500万香港ドルを確保し、香港観光の振興を戦略的に担ってもらう。貿易発展局(TDC)にも3億7,500万香港ドルを投入し、オンラインでの活動強化、デジタル化をより進めてもらう。
環境に優しい都市を目指し、太陽光パネルなどの設置を促すため10億香港ドルの予算を投入するほか、公園の改善に5億香港ドル、トレイルコースの修繕に5,500万香港ドルを付けた。5年間かけてサッカー場のピッチのアップグレードに3億香港ドル、文化・クリエーティブ関連にも10億香港ドルの予算を割いた。