企業が従業員に支払う「遣散費(Severance payment)」と「長期服務金(Long Service Payment)」について、強制性公積金(Mandatory Provident Fund:MPF)のうち雇用主の分積立金から充当できる制度が2025年5月1日で廃止される。香港政府の李家超(John Lee)行政長官が4月28日、発表した。
香港はイギリスの植民地下であったため、香港市民への福利厚生をあまり充実させてこなかった。しかし、2000年12月、老後の生活保障のため「MPF」を開始。月額7,100香港ドル以上受け取っている18歳以上65歳未満の従業員(正社員、パートタイマー)は、雇用開始から60日以内にMPFに加入しなければならない。香港滞在が13カ月以内の従業員と外国籍の従業員についての加入は強制されない。
企業が従業員の雇用契約を解除する場合、事前予告通知または事前通知に代わる金銭の支払いが必要となるが、その一つである「遣散費」は、24カ月以上継続して雇用されている従業員が一定の条件下において解雇または退職した場合に企業から支払われる補償金を指す。一方、「長期服務金」は、5年以上継続して雇用されている従業員が、遺散費同様に一定の条件下で解雇または退職した場合に会社から支払われるお金を示す。
毎月の賃金(基本給、各種手当、ダブルペイ、ボーナスなどが含まれる)のうち3万香港ドルを上限とし、そのうち10%(会社と従業員がそれぞれ5%ずつ負担する。月収7,100香港ドル以下の場合は、企業側だけが5%を負担する)を雇用主が従業員のMPF口座へ毎月、積み立てる。
受給開始は基本的に65歳だが、外国人従業員が離港する場合は一度に限りMPFを解約することができる。再び香港で就労する場合はMPFへの再加入が義務付けられ、この場合は2度と解約できず65歳まで受け取ることができず、その間にまた香港を離れた場合は65歳まで「塩漬け」となる。
充当の廃止については、2015年ごろから長年、立法会で議論されてきた。老後の資金として積み立てるべきお金を、MPFとして企業側が積み立てていた分とはいえ、解雇時の遣散費や長期服務金という補償金として活用するのはMPF創設の趣旨にそぐわないためだ。そうしたことから何度も立法会で修正案が出されてきた。そして、2022年6月17日に改正条例案がようやく立法会を通過した。その時点でも充当を止める具体的な日程は明示されていなかったが、2025年5月1日から適用される。
企業側はMPFから解雇資金を回せなくなったことから財政的負担が大きくなるため、香港政府は最長25年間で330億香港ドルの補助金制度を準備する。