香港のデザインのイベント「deTour 2025」が11月28日、中環(Central)の「元創方(PMQ)」(35 Aberdeen Street, Central, Hong Kong TEL 2870 2335)で始まった。今年のテーマは「想望之器(The Shape of Yearning)」。美学や機能性を超え、デザインが人々の欲望や価値観を映し出す「器」としての可能性を探る試みを10日間にわたって展開する。
スイスのデザインスタジオ「Encor Studio」による香港初公開作品「ALCOVE IN SITU」
会場となるPMQは2014年にリノベーションを行い、現在は100以上のデザインスタジオが集まる香港の創作拠点。deTourはその象徴的イベントとして毎年開催し、若手とベテラン、香港と海外のクリエーターを結びつける場を提供してきた。
キュレーターを務めるのは、香港のデザイナー陳紹恆(Adonian Chan)さん。陳さんは「日常生活はデザインに囲まれているが、私たちはその意味を深く考えることが少ない。デザインを通じて内面を見つめ直し、創造の根源にある欲望を探りたい」と話す。今回のフェスティバルでは香港、中国本土、そして世界各国から集まったクリエーターによる17のインスタレーションや展示を行う。
注目を集めるのは、スイスのデザインスタジオ「Encor Studio」による香港初公開作品「ALCOVE IN SITU」。光や音、電気化学フィルムを用いた大規模インスタレーションで、存在と不在、記憶と感覚の境界を問い直す。来場者自身の知覚が作品の一部になるという。
さらに、4つの特別展示でテーマを多角的に解釈。香港のデュオ「TOUN」による「Philo Modular System」は都市生活に適応するモジュール家具を提案し、持続可能な住空間を創出する。日本のグラフィックデザイナー坂本俊太さんによる「Instrument.Play.Graphics」は、視覚デザインを触覚や音と融合させ、身体的な操作でグラフィックを奏でる体験を提供。イタリアのルチア・マッサーリ(Lucia Massari)さんはベネチアのガラス工芸を現代的に再解釈した「primavera」ランプを展示するが、これは「伝統と革新の対話を示す作品」だという。ロンドンと香港を拠点とするNopqrstは街頭ポスターの痕跡をアルミ彫刻に転写し、AR技術を組み合わせて都市の記憶を新しい形で提示する。
オープンコールと呼ぶ、毎年開催前に国内外のクリエーターから作品提案を募集する試みで選ばれた12作品も多彩。陶磁器の新技術を用いてレンガを変形させたGROOVIDOの「A Battle of Beasts」、膨張素材を使った仮面でアイデンティティーの流動性を探るArchitecture and Allの「Becoming: Aerated Identities」、MBTIデータを3Dプリント花瓶に変換するEmbracefloralとArfalizationの「BloomDentity」など、テクノロジーと文化を融合させた作品群が並ぶ。
パブリックプログラムも充実させた。デザインと自己表現を結びつけるワークショップは10種類以上、計40セッションを用意。親子向けの「deTour Kids」では子どもの創造力を育む体験型プログラムを展開する。キュレーターやデザイナーによるガイドツアー、インフルエンサーや文化人によるトークセッション、実験的な音楽や映像パフォーマンスも行う。
開催時間は11時~20時。入場無料。12月7日まで。