日産自動車が納入した香港向けのタクシー「NV200」が香港の街を走り始めた。日本で「NV200バネット」と呼ばれるミニバンで、従来のセダン型と比べて環境性能、燃費、居住空間が大きく改善されているのが特徴。6月までに50台を納車し、今年末までには200台を目指すとしている。
同タクシーは現在、東京で750台、ニューヨークでは新しい「イエローキャブ」として500台が走行を開始し、今後約1万3000台が数年かけて入れ替わる予定だという。バルセロナでも2015年10月から、電気自動車「e-NV200」が運行することが決まっている。
特徴は「ミニバンという大きさ」。香港タクシー市場の98%ともいわれるシェアを持つトヨタ・クラウンコンフォートと比べて32.5センチ高い。ミニバンなので3列配置も可能だったが2列にし、最後列は大きなトランクスペースとした。それにより、車椅子の乗客も車両後部から直接乗ることが可能。香港の街中で時々見かけるような、荷物で閉まりきらないトランクをロープで強制的に押さえて走行する必要もない。
ロンドン、北京、ニューデリーなど世界中に大都市がある中で香港を選んだ理由について、日産グローバル・コミュニケーションズの永井志朗シニアマネジャーは「インフィニティ・ブランドを含め香港がグローバル本社ということで、自社技術を用いて何か貢献できないかというところから始まった」と語る。当初は電気自動車を考えたがインフラなどの面から断念し、LPGとガソリンを併用する「バイフューエル」というエンジンを導入した。同エンジンは、従来のLPG専用エンジンより80%も窒素酸化物(NOx)が少なく環境にも優しい。1回の燃料チャージで550キロの走行が可能という。
香港にも独自のタクシーの規格があるため、同タクシーの香港市場導入に向け永井シニアマネジャー自ら「香港政府、日本などと細かく情報交換、折衝を重ねた」という。その結果、法律ではなく特別な許可を得る形で香港での走行が可能となった。
ベース車両の開発は日産自動車が行い、生産は日産車体の湘南工場が担当。日産は一昨年、政府、自動車ディーラー向けに大規模な展示会を実施した。「反応は良かった。ディーラーはその日のうちに内寸などを計っていた」と手応えを感じていたという。販売は合誠汽車(Honest Motor)。後部座席にディスプレーを配置したり、Wi-Fi機能を入れたり、ブレーキの耐久性を考慮してスチールホイールからアルミホイールにするなど、香港のニーズに合わせた改良を施した上で販売を開始した。
香港では約1万8000台のタクシーが運行しているが、現在は新規のタクシーライセンスを発行していない。トヨタのタクシーがほとんどを占め、部品の修理を含めて一種の「エコシステム」が確立している。また、商用車の場合、車のオーナーがメーカーを変えたがらない傾向にあるため、そこにどう風穴を開けるかが大きな課題だという。