香港の中華料理店で8月6日、岩手県釜石市のホタテ卸会社「ヤマキイチ商店」の主力商品「泳ぐホタテ」の提供が始まった。
東日本震災後の復興に励む同社によると、「泳ぐホタテ」は、「箱の中からガサゴソと音が聞こえるくらい新鮮なものを目指している」といい、偶然採れた物ではなく、日々の努力と管理でホタテの大きさを作っているという。専務の君ケ洞 剛一さんは「自然任せでいいホタテが作れるほど甘くはない」と話す。
「東日本大震災では社屋・家屋共に全壊・流出したが、そのことがこれまで問題が山積していた三陸の水産業を変えていかなければならないきっかけになった」と振り返る。震災前は主要顧客を首都圏と地元岩手の約4万人のエンドユーザーへのダイレクト通信販売で展開していたが、震災後はレストランとの取引も始めたという。
現在取引する約10件はほとんどが首都圏というが、「国内・海外にこだわらず、素晴らしい人たちと一緒にやっていきたいとの思いから、香港市場への展開を決めた」と君ケ洞さん。
「大きなホタテを作るには漁師との深い連携が必要になる。たまたま大きな個体ができることがあっても継続的に作っていくためには、手間暇と経験、技術が必要」とも。
鮮度管理はシーズンごとに変えなければならず、夏季は機械を使わず手たたきで掃除をしなければホタテが弱まってしまうといい、「漁師も意識を変える必要があった」と君ケ洞さん。「一次産業に携わる人が誇りと自信をもって幸せに暮らし、この土地に生きる人たちが『あるべき姿』になっていく原動力になればという思いが根底にある。三陸や、東北は食に関してモデルになれるはず。その資源はふんだんにあるため、後は伝え方」と話す。
香港市場参入のきっかけは、震災から釜石へ支援を続けていたUBS銀行との出会いだったという。「さまざまな人と出会うことができ、今回の提供開始につながった」と話す。輸送コストなど、まだ解決の余地を探っている課題もあるというが、「泳ぐホタテ」を取り扱う香港の中華料理店では「注文した顧客の多くはまず大きさに驚き、その上で甘さ、食感などに満足している」と評判は上々だ。