梁振英(りょうしんえい)行政長官は1月18日、2017年の施政方針演説を立法会で行った。
梁行政長官にとっては任期最後の施政方針だが、香港の永遠の課題とも言える住宅問題、日本と同様に急速に高齢化社会へと進んでいる高齢者対策を充実させた。香港の独立については「その余地はない」と警告を発した。
梁行政長官は2016年12月9日に、3月に行われる次期行政長官選挙について家族の問題などを理由に不出馬を表明している。これにより今回の施政方針演説が最後になった。
住宅問題解決は、毎年注目されるテーマで、香港にとっての長年の課題だ。すでに約4割の香港市民は公営住宅に住んでいるが、公営住宅に入居が認められた後も、さらに数年待たなければいけないのが現状。そのため公営住宅に入るまでは民間住宅に住む必要がある。民間住居を含め住宅供給量が需要を圧倒的に下まわっており、香港政府がどれだけの公営住宅を建設できるかは、香港の民間マンションの価格に大きな影響を与えることになる。
梁長官は住宅問題が解決できていないことを認め、その上で2016~2017年から5年間で公営住宅を9万4500戸建設し、新規の民間住宅は3、4年以内に9万4000戸の住宅を供給するとした。新しい住宅街を造成することで6年から10年後に22万戸の住宅を提供したいとも。
短期・中期的には土地の用途替えなどで計38万戸を超える住宅を建設することを目指す。このため現在「郊野公園(Country Park)」として使われている土地を環境、生態系に配慮しつつも住宅街として開発する考えがあることを明らかにした。2030年以降の香港の土地政策である「香港2030+(Hong Kong 2030+)」では2046年までには4800ヘクタールの土地がいると推測し、最低でも1200ヘクタールが必要とした。旧啓徳空港(Kai Tak Airport)エリアの開発をより加速させるほか、ランタオ島など4カ所での埋め立て、尖沙咀(Tsim Sha Tsui)地下空間の開発により新たな土地を確保することも明記した。
1950~1960年代の香港は「ホンコンフラワー」に代表されるように今の中国のように工業都市として栄えていたが、金融など徐々にサービスセクターにシフト。そこで、空洞化した産業を取り戻すため香港政府は「再工業化」を提唱、これを継続する。科学園(Science Park)は現在拡張工事中で、3年以内に40万平方メートル分増えるほか、データセンターのハブおよび製造業の中心地と位置付けた将軍澳工業邨(Tseung Kwan O Industrial Estate)は3~5年以内に完成予定。
香港の起業のしやすさを背景に、2016年は前年比で25%増の約2000社(うち香港出身者以外の創業者が35%を占める)が創業。2016年の施政方針に掲げたベンチャー企業を対象にした基金が2017年半ばに正式に運営が開始される予定で、これを利用して「起業都市」としての地位を固めていきたい考えだ。
20年後の2037年の香港は65歳以上が人口の3分の1になると香港政府は推測。かつ世界一の長寿都市であることから引退後の生活が20年以上になるため、老後の社会保障の充実を掲げた。まず、今年4月に新しいMPFの政策「預設投資策略(Default Investment Strategy)」を発表する。そこでは転職などで複数あったMPFの口座を一元化するといった方策を掲げる予定だ。
高齢者対策では、資産14万4,000香港ドル以下の単身者、21万8000香港ドル以下の夫婦を対象に毎月3,435香港ドルの社会保障費を支給する。現在、70歳から支給している「医療券(Elderly Health Care Vouchers)」の対象を65歳に引き下げる。これにより40万人の高齢者が私立病院で2,000香港ドル分の医療行為を受けることが可能になる。75歳以上では、資産14万4,000香港ドルの単身者と21万8,000香港ドルの夫婦は公立病院での費用が無料となる。
教育関連では、半日制の幼稚園を対象に20億香港ドルの補助金を計上。70~80%の半日制幼稚園が無料となる。公営の中学校には20万ドルの補助金で科学・技術・工学・数学の学問領域を一括して扱うSTEM教育の充実を図れるようにする。加えて政府があらかじめ指定する課程で勉強したいと考えている生徒のうち、経済的に厳しい学生を助けるための資金援助を強化する。
今回の施政方針で驚きを持たれたのがスポーツ関連への政策だ。今後5年間で運動場2施設、サッカー場を9施設、体育館が1施設、スイミングプール4施設、ローンボウルズのコート2施設、サイクリング施設1施設、テニスコート4施設、屋外バスケットコート11施設を作る。20のオープンスペースも造成し、総額200億香港ドルを投入する。
医療では、20億香港ドルで公立病院のベッド数、手術室の増加、一般診療、専門を含めスタッフの拡充、緊急サービスの充実を図る。
このほかにも、2028年までに湾仔(Wan Chai)にある会議展覧中心(HKCEC)を13万平方メートル分増築可能かどうか研究するとした。香港パスポートの利便性を高める交渉を世界各国とし、新たにベラルーシへの渡航はビザなしでいけることが決まり、カンボジアもビザなしで行けるようになる予定だ。無料のWiFiスポットは現在1万8400カ所あるが今後は3万4000カ所まで増やすとしている。
最後に梁行政長官は、1国2制度の香港において独立の余地は全くないとし、700万人の香港人は継続して香港と国家に貢献してほしいと語って、最後の施政方針演説を終えた。