2025年の十大ニュースについて香港を象徴する最大のニュースは、大埔宏福苑で発生した五級火災であり、社会全体に深刻な衝撃を与えた出来事となった。経済面では依然として「北上消費」が続き、香港の消費市場は低迷傾向を示した。日本との関係では、ALPS処理水放出に伴う10都県の水産物輸入禁止措置が2年以上継続する中、航空路線の拡充や日系飲食店の進出などは続き、ちいかわを筆頭にIPビジネスが活況だったほか、多彩な分野での日系企業の進出が目立った。啓徳体育園の開幕や海洋公園のパンダ誕生など、文化・社会面でも話題が多かった。香港の1年を振り返る。
(1)宏福苑の火災、香港人気質で助け合い(12月3日付)
大きなニュースもそれほどなく、比較的平和だった香港だが、2025年の終盤に発生したのが宏福苑の大火災だった。竹の足場がクローズアップされた一方で、「おせっかい」の香港人気質が大いに発揮され、多数のボランティアによる互助精神があちらこちらでみられた。
(2)台風や黒色警告で社会の一時停止が7回(9月9日付)
地球温暖化が叫ばれて久しいが、香港はもともと台風の影響を受けやすい場所に位置する。7月19日に台風の韋●(Wipha)」でシグナル10が発令され、9月7日には「塔巴(Tapah)でシグナル8が発令された。また、黒色暴雨が7月29日から8月14日まで5回出された。そのため、企業は休み、学校は休校など、香港社会の一時停止は計7回に及んだ。
(3)立法会選挙が開催(12月7日)
香港で立法会選挙が予定通り実施された。直前の11月26日には宏福苑で大規模火災が発生したが、選挙日程は変更されなかった。今回の選挙は、前回から導入された新しい立候補資格の規定により、候補者はすべて親中派に限られたことが特徴である。これにより、選挙戦は事実上「親中派同士の競争」となり、多様な政治的選択肢が失われたとの指摘もある。投票率は史上2番目に低い31.9%にとどまった。
(4)訪日観光は大地震の噂が直撃 オクトパスは利用可能に(3月7日、7月14日、10月3日付)
毎年多くの香港人が日本を訪れているが、今年は「7月に大地震が発生する」という噂がSNS上で広がり、一時的に訪日旅行が大きく落ち込んだ。とはいえ、7月5日以降は需要が回復基調に転じ、SNSの影響力の大きさを改めて示す結果となった。また、交通系ICカード「八達通(Octopus)」は10月2日からPayPay加盟店でアプリを通じて利用可能となり、香港市民にとって日本での買い物の利便性が一段と向上した。2025年通年の訪日旅行者数は4000万人を突破。香港からも依然として人口の約3分の1が日本を訪れており、両地域の交流の厚みを物語っている。
(5)トランプ大統領の関税措置のひとつ「デニスミスルール」に翻弄される(5月7日付)
香港から発送される800米ドル(約11万6,000円)以下の小口輸入品に対して関税を免除する措置(De minimis/デミニミス・ルール)が5月2日で終了した。これを受けて香港郵政(Hong Kong Post)はアメリカへの小包の発送を停止するに至った。単価が低いことから取引総額的は香港経済に決定的なダメージは大きくないが、個人レベルで影響を受けた人が少なくない。
(6)名都酒楼、海皇粥店、羅富記など有名店が閉店(1月26日、5月16日、10月6日付)
ワゴン式の飲茶ができることで有名な中華料理店「名都酒楼」が35年の歴史に幕を閉じた。また、創業77年の粥の老舗「羅富記」も店を閉めた。オーナーの引退が直接の原因だが後継者がいなかったことが響いた。粥のチェーン店の「海皇粥店(Ocean Empire Food Shop)」も閉店した。最大30店舗を超えていたが、新型コロナで市民の外食が減り、外食する時は深●などで「北上消費」する悪影響が経営を直撃した。12月29日には、漢方茶や漢方薬店「春回堂」が100年以上の歴史に幕を下ろした。「名都酒楼」と同様に不動産売却による閉店とみられる。
(7)広東省からの車両乗り入れ開始(7月7日付、11月19日付)
広東省の車両が香港への乗り入れを可能にする「粤車南下(Southbound Travel for Guangdong Vehicles)」の第1弾である香港国際空港への乗り入れが11月15日に、第2弾の香港市街地への乗り入れが12月23日に始まった。香港経済活性化の一環だが、香港政府はどの程度の効果があるのかなど見極めていく方針だ。
(8)ちいかわ、LABUBU、ガンダムなどIPビジネス好調(4月17日、9月5日、12月19日付など)
2024年はドラえもんのイベントが多数開催されたが、2025年は日本発が「ちいかわ」、「ガンダム」、香港人がデザインした「LABUBU」、タイの人気キャラクター「マムアン」と国際色豊かなIPビジネスが活況を示した。多数のIPを抱える日本にとって、大きなビジネスチャンスが香港に広がっていると言える。
(9)セカンドストリート、メルカリ、3 Coinsなど非飲食の進出多く。飲食系も継続して進出(5月9日、7月19日など)
近年の日系企業の香港進出は、飲食店が多かったが、2025年はリユースショップの「セカンドストリート」、フリマアプリの「メルカリ」、雑貨の「3COINS」が進出してきた。香港における日系企業の多様性が広がったことを意味する。また直近12月でも@cosmeやアニメイトが旗艦店をオープンさせるなど、依然として日本企業の進出は多い。もちろん、日系の飲食店も継続して進出しているが、大手チェーンは一通り進出が完了し、今年は特に地方のブランドが直接香港に進出するケースも多くみられた。
(10)「Bar Leone」と「Rosewood Hong Kong」が世界一に(10月9日、11月3日)
イギリスのWilliam Reed Business Mediaが毎年、優れたバー、レストラン、ホテルなどを発表する「50 Best ~」シリーズ。世界のバー部門「The World’s 50 Best Bars 2025」で「Bar Leone」が1位に選ばれた。優れたホテルを表彰する「The World’s 50 Best Hotels 2025」では「Rosewood Hong Kong」がトップとなった。香港のホスピタリティの質の高さが世界に証明された。
ランクインはしなかったものの、香港経済を支えた大手デベロッパー恒基兆業地産(Henderson Land Development)の創業者、李兆基さんが亡くなったことも時代の節目を感じさせる出来事。タクシー業界では、新規タクシー会社5社が参入し、電子決済義務化など業界が変化している。エジプト展開催は大いに盛り上がるなど文化的なイベントは日々開催されている。トランプ大統領の影響により、香港の各大学がハーバード大留学生を受け入れるというニュースもあった。日本から香港への来港をみると、特に若い世代が街中で写真を撮ったりエッグタルトをほおばる姿が見られるなど、昨年よりは回復基調にある。日中問題の渦中にある香港だが、日本との関係はむしろ深化が進んでいる。2026年も香港への関心を寄せてもらうために発信を続けていきたい。
●=巾へんに白、●=土へんに川