閣議に当たる行政会議は4月1日夜、無料地上波「亜洲電視(ATV)」の無料放送免許更新の継続を打ち切る決定を下した。テレビ局の免許更新を認めなかった事は初めて。香港各メディアが一斉に報じ、2016年4月1日に閉局することが決定した。
ATVは有料地上波テレビ「麗的映聲」として1957年に開局した香港最初のテレビ局。しかし、1967年に開局した「無線電視(TVB)」はカラーの無料放送だったこともあり、視聴者は流れることになった。その後、社名を変えたり有料から無料放送に変更したり、オーナーが変わることが頻発するなど、ガバナンスが安定せず、経営状況の悪化を招いていた。昨年後半には給与の未払いが明るみになるなどして香港政府などが経営改革を要求。蘇錦●(グレゴリー・ソウ)商務・経済発展局長は、ライセンスを更新しない理由として、「資本不足、低視聴率、民衆の失望と怒りを買っていたこと」を挙げた。また「閉局までにATVが法律に違反しないかどうかなど、混乱を防ぐためをそれを監視する特別チームを編成する」とした。
ATVは対外債務など負債額が約20億ドルあるといわれ、一方で資産は、放送設備、ATVの社屋、これまで制作してきた番組などで約12億ドルの価値があると見積もられている。ATVと契約している会計事務所デロイト・トウシュ・トーマツは放送免許が更新されることを前提に、ある投資家とATVの主要投資家である王征と大株主である黄炳均との覚書を4月1日午前に交わしたと発表したが、それも水の泡となった。デロイトの担当者は会見では投資家の名前を言わなかったが、報道陣に掲げた覚書の紙には香港にあるHMVを救ったAID Partners という社名が書かれていた。結果的にはしごをはずされた形なったATVは「意外と憤慨」という言葉で怒りを示し「法的手段も考慮する」との声明を発表した。
600人とも700人とも言われるATVの従業員は失業することになるが、張建宗(マシュー・チュン)労工及福利局長は「局として職員に適合する職を見つけるサポートをする」と表明した。元ATVの関係者は香港経済新聞の取材に対し、「経験者が多く、別の無料放送局が開設されるので職の確保は多分大丈夫だろう」と話す。ATVの契約タレントの周嘉莉(レイチェル・チョウ)さんは「最後の1日まで私が務める番組の司会する義務を果たしたい」と気丈なコメントを出した。ATV出身で現在は映画俳優・プロデューサーの杜●澤(チャップマン・トウ)さんは同局の有名ドラマ『変色龍』のテーマソングの歌詞の一節を用いて状況を嘆いた。
ATVのライセンス更新をしないことに伴い、香港政府は香港通信大手のPCCWが運営する「香港電視娯楽(HKTVE)」に向こう12年間の無料放送の権利を与えた。すでに香港電視娯楽にライセンスを発行することは2013年に決定していたが、HKTVEは今回の一件で長期にわたる免許を交付される代わりに2年以内に広東語と英語チャンネルを1局ずつ開局し、広東語放送は24時間、もう1つも最低16時間の英語番組の放送を行うことを政府と約束した。同じく無料放送のライセンスを与えられていた有線電視(i Cable Communications)傘下の「奇妙電視」は今回、ライセンスは受け取れなかった。
この前日の3月31日には、スマートフォンやタブレットなどのデジタル端末を使った放送をしている香港電視網絡(HKTV)がATVの株を引きうけるという報道もあったがHKTV側はそれを否定。HKTVは香港電視娯楽や奇妙電視と一緒に無料放送免許を申請し本命視されながらも免許が交付されかった経緯もあった。報道によれば、ATVはHKTVのトップで2008年にATVの最高経営責任者(CEO)に12日間ついたこともある王維基(リッキー・ウォン)の条件を飲む代わりに株を譲渡するというものだった。わずか12日だけ就任した王維基がATVを買収するというこのニュースでHKTVの株価が上昇する事態にも。一方で、このような情報をリークしたことが法律に抵触する可能性があるとしてある立法会議員は證券及期貨事務監察委員會(SFC)に個別調査を依頼。ただ、SFCは個別の件についてはコメントしないとしている。
蘇錦●=木へんに梁。杜●澤=さんずいに文。