香港のナショナルフラッグシップ航空会社キャセイパシフィック航空/国泰航空(CX)は3月27日、香港唯一の格安航空会社(LCC)である香港エクスプレス(UO)を49億3,000万香港ドル(約690億円)で買収すると発表した。
CXはこれまで、フルキャリアとしてプレミアム路線をしてきており、低価格路線とは一線を画してきただけにLCC買収は大きな方針転換といえる。買収内訳は、UOの親会社であった中国最大の民間航空コングロマリットの海航集団(HNA Group)から3億1506万716株全てを22億5,000万香港ドルでの買い取りと、UOが抱える26億8,000万香港ドル分の債務の現金での返済。2019年末までに完全子会社にすることを目指す。
香港エクスプレスは2004年に港聯航空として創立され、2006年に海航集団傘下の海南航空(Hainan Airlines)が2006年に45%の株式を取得し傘下に入った。翌2007年に香港エクスプレスとして名称を変え2013年からLCCに業態を変更した。日本の地方空港を含めた路線が多く、日本便全体では、今後就航することを含めると羽田、成田、中部、関空、高松、広島、福岡、長崎、熊本、鹿児島、石垣、下地島と12空港もある。ここ数年の日本観光ブームのけん引役となったのが香港エクスプレスだ。
ただ、LCCということで利幅が低いことなどから経営は決して安定しているとはいえなかったほか、2017年10月にはマネジメントの問題から関西空港、名古屋便などが突如、欠航する事態になり、当時のアンドリュー・コーエン最高経営責任者(CEO)が辞任する事態に陥った。
親会社だった海航集団は香港エクスプレスや海南航空だけではなく、天津航空、西部航空など10以上の航空会社を所有しているほか、ヒルトン・ワールドワイドやドイツ銀行の大株主としても知られていた。しかし、急激な事業拡大により資金繰り悪化し、2018年にはヒルトン株の売却を完了しドイツ銀行株の売却を進めている。加えて2018年7月には王健共同会長がフランスで不慮の事故で死亡するなど、経営が不安定で倒産の危機にあるといううわさが絶えなかったが、倒産すれば大量の失業者が生まれるため政府当局にとって「大きすぎてつぶせない」という現実もある。
キャセイは2006年にドラゴン航空を傘下に収め、香港エクスプレスの買収で香港航空以外の会社を全て傘下に収めたことになる。2015年12月には日本の独占禁止法にあたる「競争条例」が施行され、買収も香港政府による認可が必要となる。条例の中には市場支配力を乱用して競争を制限・妨害する行為などが定められているが、一方、協定が物流などの改善するものに資すること、サービスの実質的な部分に競争制限を加える可能性を与えるものではない場合などの場合は適用除外となることが明示されている。つまり、UOは香港唯一のLCCでCXが買収しても関連する事業者はいないこと、UOの経営難による救済という面もあること、香港政府は基本的にレッセフェール(自由放任主義)の立場をとっていることから買収は認められる公算が高い。
乗客には競争の原理が働かなくなったことで懸念材料が発生する。キャセイが2017年12月期まで2期連続赤字で、2018年1~6月の決算でも赤字を計上したのはまさに香港エクスプレスとの競争に苦しんだからだ。本社のリストラのみならず、カナダのトロントの客室乗務員のベースを閉鎖するといったコスト削減を進めるなど、決して経営的に安定しているわけではない。「キャセイと香港エクスプレスのビジネスは補完的であり、相乗効果を生むだろう。香港エクスプレスはLCCとして独立した運営を続ける」と声明を出しているが、CAとUOは6割が路線を競合しており買収できることはキャセイにとっては渡りに船だ。
しかし、もしキャセイの経営が不安定になれば、重複が多い羽田、成田、関空のUOの便減便が真っ先に考えられるほか、搭乗率や利益率が低いと判断した場合は地方空港からの撤退もあり得る。航空券価格が値上がりする可能性については、競争条例の「第2行為守則」には支配力乱用を禁止し、消費者の利益を侵害することは認められていない。買収後に大幅に値上げをすれば当局が動く可能性もあるが、それは未知数だ。