西貢(Sai Kung)から東に3キロの場所にあり300年の歴史を持つ離島の鹽田梓(Yim Tin Tsai)で現在、「鹽田梓藝術節(Yim Tin Tsai Art Festival)」が開催されている。旅遊事務署(Tourism Commission)が主催で、島全体が自然と芸術が融合した場所となっているユニークなイベントだ。
深●には巨大な港である塩田港があるが、その塩田村にいた客家の陳孟德夫妻が約300年前に鹽田梓に移住してきたのが始まりといわれている。「梓」には故郷の意味が込められている。村が形成され塩田による塩の精製や漁業で生計を立ててきた。1864年になるとS. VolonteriとG. Origoの神父2人がここで布教活動し1966年に陳家30人がキリスト教に改宗。1975年には島民全員がキリスト教徒となった。
最盛期には1200人が住んだといわれるが、生活環境は厳しく、多くの村民が生活のために島を出たため1998年に無人島となった。ただ、その後も村民の一部が教会の保全や修復などを継続していった結果、2005年には「聖若瑟小堂(St Joseph’s Chapel)」という教会がユネスコの登録遺産に指定されたほか、2011年には香港政府によって第2級の歴知的建造物に登録された。
これを機に、保全活動がさらに進み島全体が観光スポットとなっていった。教会と並び広く知られているのは塩田。数年前から塩田の復活に取り組み、昨年4月に海水塩の生産に成功した。1瓶50香港ドルで、この島のみで販売している。
2019年に正式に「藝術節」として始まった企画は好評で、2021年も開催することが決まった。前回のテーマは「天、地、人」だったが、今回は「人」に特化している。天と地と人が長い間共存してきたこともあり、そのコンセプトを反映した作品も数多くある。
展示作品は2019年に展示されたものも、そのまま観光資源として活用されてきたが、今回は新しく14作品を鹽田梓内の各所に展示する。「思念人之屋(The House of Longing)」は高等教育科技学院の生徒による作品。1960~70年代は大勢の島民が島を離れたが、当時住んでいた家のミニチュアを作り、色とりどりに着色し、それを枝の上につるした作品だ。街全体が荒廃していく記憶と昔の懐かしさを合わせて表現した。「滄海一粟(A Brief Encounter with Nature)」は芸術家の黄德明さんの作品で、正方形の中に、まるで刺しゅうのようは幾何学模様を竹などで10作品以上作り、それを南東部にある玉帯橋付近の水面に浮かべた。ほかにも草むらに現れる昔の住民を表現したかかし、階段の垂直部分に描かれた旧約聖書詩篇23篇を題材にした羊飼いと羊の絵などを展示する。
会場へは、西貢にある洪記海鮮酒家の近くの港からサンパンを利用する。チケットは出発場所のそばにパラソルが広げられたチケット売り場で販売する。料金は往復60香港ドルで、所要時間は片道15分。開催期間中は毎日運航し、鹽田梓へは10時、11時、12時、13時、14時、15時に出航。帰りの西貢までは12時20分、14時20分、16時、17時発の4便を運航している。
7月16日まで。
●=土へんに川