香港政府は2月8日、ワクチン接種を基本とした新型コロナウイルス対策「疫苗通行證(Vaccine pass)/ワクチンパス」についての新政策を発表した。例えば、18歳以上は6月末までに3回目の接種をしていない場合、飲食店や公共施設、ショッピングモールをはじめとする民間施設などに入れなくなる。今回の方針は日常生活に大きな影響を与えることから、事実上のワクチン接種義務化といえる措置だ。
香港は12日現在、累計感染者数が1万6719人、死亡者は219人、回復者1万4780人、新規感染者は1514人で、1509人が域内感染となっている。一方、ワクチン接種者については、1回目が557万4993人(82.8%)、2回目も終えた人は497万9913人(73.9%)となっている。3回目の接種回数は120万8010回だ。
アルファ株、デルタ株の感染拡大は世界と比べて抑え込んだ香港政府だが、感染力が高いオミクロン株については抑え込みが思うように進んでいない。最近、中国政府は「動態清零(Dynamic Zero Infection)」という言葉を使うが、香港政府もこの言葉をよく使っている。これはゼロコロナを求めるものではなく、早期発見、早期対応などをすることで社会に感染の連鎖を防ごうとするコンセプトを意味する。ただし、中国本土との往来を最優先とする香港政府としては、現実として事実上のゼロコロナを推進しなければならない。
新しいワクチンパスは2月24日に開始されるが、ワクチン接種については3段階で行う。第1弾=2月24日より12~17歳は1回接種、18歳以上は1回接種。第2弾=4月末より12~17歳は1回接種、18歳以上は2回接種。第3弾=6月末より12~17歳で1回目の接種から6カ月以上経過した人は2回接種、18歳以上で2回目の接種から9か月以上を経過した人は3回接種が必要となる。
接種記録は、新型コロナウイルスの感染者と接触した可能性を通知するスマートフォン向けのアプリ「安心出行(LeaveHomeSafe)」と連動させる。レストラン、ショッピングモール、銀行、病院、政府施設などの入り口にQRコードを掲示する予定で、入場時にQRコードをスキャンすることで利用が認められる。適用場所は、数にして全体で11万カ所あり、そのうち民間施設は8万7000カ所に上るため、接種しなければ入場できず、普段の生活に支障をきたすことはほぼ確実だ。
外国でのワクチン接種記録も安心出行に登録できる。その手続きは香港内にある18カ所の郵便局で所定の用紙に必要事項を記入する。香港では米ファイザー/独ビオンテックの「復必泰(Comirnaty)」と北京の科興控股生物技術(Sinovac Biotech)の「克爾来福(CoronaVac)」のワクチンが採用されているが、日本で採用されている米のモデルナの「Moderna COVID-19 Vaccine」(接種2回)のほか、アメリカのジョンソン・エンド・ジョンソン傘下でベルギーのヤンセンファーマの「Janssen COVID-19 Vaccine」(同1回)、イギリスのアストラゼネカの「Vaxzevria」(同2回)、インド血清研究所がアストラゼネカから許可を得て「Covishield」(同2回)、中国の康希諾生物(CanSino Biologics)の「克威莎」(1回)など海外や中国本土の16種類のワクチンも適用するとしている。
飲食店営業についてのワクチンパスは2月10日から先行して実施している。レストランは現在、B類、C類、D類の3種類あるが、D類(3200店舗)で試験的に実施中。D類は18時~翌5時は店内飲食禁止で、1テーブル当たり4人、収容人数の上限は100%だが、宴会は認められていない。従業員は2回のワクチン接種が完了し、利用客も最低1回のワクチン接種を終えていなければならない。
現在は永久居民など香港在住資格者しか香港に入れない。今後、新型コロナウイルスが落ち着き、ビジネスマンや観光客を再び受け入れるようになった上で、香港政府がワクチンパス政策を継続した場合、観光客などが必要なワクチン接種を終えていなければショッピングモールなどに入ることができなくなる。香港への渡航を考えている人はワクチンパスの行方を注視したほうがよさそうだ。