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香港のグラフィティ「九龍皇帝」の作品、新たに見つかる 旺角東近くの鉄橋下で

作品を見に立ち寄る人も

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 香港で「九龍皇帝(キングオブカオルーン)」と呼ばれ、書家でありグラフィティアーティストの故・曾●財(ツァン・チョウチョイ)の作品が4月に入り、旺角東の高架橋下で見つかった。香港の街中をキャンバスに、筆で生涯のメッセージや家系について力強い文字を書き続けた落書きのようなカリグラフィ作品が象徴で、2007年にその生涯を閉じるまで、5万点以上の作品を書いたといわれている。昨年11月に開館した香港の美術館「M+」も、曾が作品を書く姿の写真から鉄のゲートや木門など実際の作品まで曾●財に関わる作品22点を収蔵している。

間近でみると何度も上から塗られたことが分かる

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 新たに作品が発見された場所は、旺角界限街の花墟公園や旺角スタジアムのすぐ近くを走る東鉄線の鉄橋の下の壁。何度も塗り直されたであろう白と黄色のペンキがはがれ、「廣東(広東)」「去英國(イギリスへ行く)」「國皇(王)」「財」などの文字が見える。

 曾●財は1921年に中国広東省で生まれ、16歳の時に香港に渡った。貧しい労働者だったため、その頃はほとんど字が読めなかったという。35歳のとき、香港の街に独特の落書きをするようになる。曾がグラフィティを始めたきっかけは、祖先の遺物を整理した際、祖先に分け与えられた土地が政府に収用されたことに気づいたことにあるといわれている。曾は自分の祖先の家系図を調べ、「九龍の土地のほとんどが自分の祖先のものであることを発見した」と主張した。曾の主張を裏付けるような記録はなかったものの、郵便受け建物、電柱などに50年間、「祖先が有した土地の大部分がはく奪され、それは土地所有権の侵害である」というメッセージを書き続けていた。

 九龍側を中心に街中に彼独特な書体で家族の歴史や個人の生い立ちを落書きし始めた。九龍に土地を持っていたため、自らも「九龍皇帝」と呼び、庶民の代表として一般的に知られるようになった。

 曾の作品は香港人として初めてベネチア・ビエンナーレに取り上げられたが、その生涯は香港政府との戦いでもあった。曾は公共物に落書きしていたため、口頭で注意され、度々逮捕され、時に罰金も課せられた。書いては消され、書いては消されを繰り返し、香港政府は常に曾の作品を塗り替えていた。

 しかし曾の死後、作品としての評価が世界にも認められるようになると、政府は曾の作品を塗り替えないようになり、その中でも知られたものは尖沙咀のフェリーピアにある作品。現在もアクリルでカバーされ、保護されている。

 現在、政府は近年見つけた曾の作品をできるだけその場でそのままの場所で保存する方針を掲げていることから、今回の作品についても鉄橋を所有する香港鉄路有限公司も積極的に作品を保存する方向を検討しているようだ。

 ●=火へんに土。

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