日本政府が東京電力福島第一原子力発電所に関連する多核種除去設備(ALPS)処理水が海洋放出を8月24日から実施することを決定したことを受け、香港政府は同日、東京、福島、千葉、栃木、茨城、群馬、宮城、新潟、長野、埼玉の10都県からの水産物の輸入禁止措置を始めた。一定の影響は避けられない見通しだ。
香港は農林水産物の輸出で2020年までは16年連続で1位を記録するなど日本の水産関係者にとって重要な輸出先で、農林水産省が2023年2月に発表した「2022年の農林水産物・食品の輸出実績」によると、香港は約2,086億円、水産品は755億円を記録している。
東日本大震災以降、香港はいくつかの県の輸入について制限を課してきたが、今回の措置により10都県からの生、冷凍、冷蔵、乾燥物、保存された水産物、海塩、生または加工された海藻は輸入禁止となる。
香港政府は、安全性を担保するための検査強化に必要な機器購入のために年間600万香港ドルの追加予算を組んだほか、売り上げが減少することが予想される日本料理店などに救済措置を講じることを表明。今後の規制緩和のためには観測データなど判断材料が必要であり、現時点では禁輸期間については不明とした。ただ、「今後も日本側と連絡を取り合う」としたほか、規制開始前から緩和についてのコメントが政府側から出るなど、経済に与える影響を懸念している様子もうかがえる。
22日に海洋放出決定が発表されると、23日の香港メディア各社やSNSはすぐに反応を示した。香港メディアでは各社、程度の違いはあるものの、冷静に報道しているメディアも多い。公共放送局「RTHK」は「李家超行政長官がFacebookを通じて『30年間核廃水の大規模放出という前例のない決定と実行は食の安全へのリスクと海洋汚染を考慮せず、無責任であり、自ら問題を他人に課している。強く反対する』と投稿した」と報道。オンラインニュース「香港01」は、タイトルを「福島の処理水、研究では中国沿岸に到達まで240日 日本の漁民は生計を心配」としながらも、「日本も国際原子力機関(IAEA)も排出対策は安全だとし、韓国政府は科学的、技術的に問題はないとしているが、誰もが安心するわけではない。日本の漁業関係者の中には、地元産業の生計に打撃を与えるのではないかと懸念する人もいる」と報道した。
両政府の立場を報道する冷静なメディアもある。無料新聞「am730」は、「日本政府の発表を受けて、中国外交部は『今件を深刻に懸念し、強く反対する』と述べ、日本側に厳重に申し入れを行った。 香港政府も昨日、明日から東京や福島など10県からの水産物の輸入を禁止し、日本から輸入した食品サンプルの放射能検査結果、香港の放射線量、香港水域と漁獲の検査結果を毎日発表すると発表した。香港の日本レストランは全般に、経営に大きな影響が出ることを懸念しており、『おまかせ』を提供する経営者が、一部の魚介類を入れ替えたものの、刺し身や貝類は提供できないものもあると述べ、席予約も50%激減。顧客からはさまざまな意見があり、『魚は泳ぎ回っているため処理水について心配がないものの、(輸入量が減ったり、日本国内の輸送費などがかかるため)日本海産物の価格が高くなると心配している』との声もある」と報道した。ほかにも、この決定を受け、「日本の海産物が大好きな香港人は困ってしまう」「香港の飲食業界は今、決していい状況と言えない。香港の日本レストランへの打撃はコロナウイルス感染症の流行に匹敵するもの」という心配な声を取り上げるメディアも見られた。
SNS上のコメントを分析すると、1割程度は「日本食を食べなくなり、日本に旅行に行かなくなる」などの投稿があることも確かだが、半数以上が「日本食を食べることをやめない」とコメントしている。「どちらとも言えない」「放出後半年程度の状況を観察する」人も多い様子。
23日夕方以降、ある日系のチェーンすし店には100人程度の行列が見られた店舗もあり、小売店のすしコーナーもその多くが売り切れ、香港では相変わらず、すしは人気商品の様相。日本に度々旅行に出かける廣菁さんは「今夜すし店を2軒、はしごした」と言い、その理由について、「明日から日本産の刺し身やすしを食べるのをやめるからではなく、明日以降、日本の魚が香港市場に入らなくなったら、すしが食べられるかどうか分からないから」と話す。