立法会の条例草案委員会が10月16日、タクシーを中心とした交通法規に関する法律について議論を行った。
現在、香港のタクシーは1万8163台が運行しており、香港島と九龍は赤、新界(New Territories)が緑、大嶼山(Lantau Island)は水色の3色に区分され、基本的にエリアを越えて営業することはできない。今回は、エリアを越えつつも、運行用途は限定する方式などが話し合われた。仮に実現した場合、利用者が識別するために新色が加わる可能性も出てきた。
香港のタクシー制度は、歴史的背景から日本の制度とは大きく異なる。最初は「香港九龍的士(The Hong Kong & Kowloon Taxi Cab)」がタクシーライセンスを取得し、フランスのシトロエン製の車両を使い1923年9月、正式に営業を始めた。漢字でタクシーは「的士」と書くが当時は言葉がなく、「自由車」と呼ばれていた。ライセンス料は無料だった。
戦後、香港の人口は増加の一途をたどったが、1959年になると新界でのタクシー需要に対応するため、当時6台以上のタクシーライセンスを保有する者は新界での営業を認められるようになった。これが、事実上のエリアごとの運行制度の始まり。同時に新界のタクシーが九龍側にある政府指定のタクシー乗り場を利用するのであれば九龍側に入ることも認められた。大嶼山での営業も1983年に始まった。
1960年代になると香港政庁は、タクシーライセンスを公開入札とする制度に変更することを決定。入札には、企業、個人問わず参加できるようにし、落札者は永遠にライセンスを保有できる権利を持つことを認めた。1965年に初めての入札(550台分)が行われ、最高落札額は4万香港ドルだった。入札制度を変更したことで、タクシーの営業は、企業による経営か、個人のライセンス保有者による経営の2つの形式となる。デベロッパー、レストラン、ファッションなどの企業も事業拡大の一環で入札に参加できるため、ライセンス保有企業は必ずしもタクシー専業の会社とは限らない。資金力があれば個人で複数のライセンスを落札することもできる。もし個人の保有者が3つのライセンスを保有していた場合、例えば、1つは自分で運転し、残り2つ分はドライバーを雇うことが可能となる。経営実態はいろいろなパターンがあるのが香港の特徴だ。
ライセンスの発行量は、1970年代であれば年間約1000台分が発行されたほか、1984年から1991年は年間300台ほど、92年と93年は新規ライセンスの発行はなかった。1994年になるとタクシー行政の見直しが再び行われ、それ以降、ライセンスの発行は大幅に減少。新規発行は、2016年の大嶼山向け25台分が最後となっている。
香港のタクシーライセンスは売買が可能で、資産として保有できるのも特徴の一つ。土地が狭い香港では、ライセンスをたくさん発行するとライセンス価格の下落と交通渋滞を引き起こすことから実現不可能。安定した資産と考えられているほか、印紙税もかからないので投資先として人気が高い。ちなみに、過去2か月間、赤のタクシーは400万香港ドル前後で取引されている。
立法会では、利便性を高めるため、営業区域を超えた運行可能なタクシーの導入を考えている。例えば、ビジネスマン向けに中環(Central)と香港国際空港(HKIA)を結ぶ形。このように営業用途を限定するかどうかは今後の話し合いによるが、実現すれば新しいタイプのタクシーとなるため、車両の色の扱いについても議論された。香港政府としては従来のタクシーと識別するため、車体の色を含めた車体デザインは独自のものを認めることも考慮しているようだ。
このほか、ドライバーの年齢制限、違反した場合の罰則規定、Uberの扱いをクリアにする、なども議題とし、立法化へ向けて議論を深めていく。