
日本の木彫作家、土屋仁応さんの個展「Cryptids Dream Twice」が6月5日、尖沙咀のハーバーシティ・ギャラリーで始まった。
強さのシンボルとして古今東西で愛される「獅子」、しなやかな強さという新しいイメージで制作
直訳すると「未確認生物は2度夢を見る」というタイトルの同展では、空想上の生き物をモチーフにした木彫作品を展示する。空想上の生き物への深い理解と描写は、香港をはじめ国際的なアート市場で高い評価を得ている。
土屋さんは東京芸術大学で彫刻を専攻した後、同大大学院で保存修復彫刻の博士課程を修了した。大学院在学中に古い彫刻に数多く触れた経験を、その後の作品制作の基盤として「伝統的な技法と革新的な表現を融合した作品作り」に挑戦してきた。日本国内だけでなく、台湾・オランダ・ドイツで個展を開いており、香港では今回が初開催となる。
香港での個展のインスピレーションは、土屋さんが日常生活の中で、愛犬が眠っている間に手足を優しくピクピクと動かしているのを見た瞬間に由来するという。「この何気ない日常の一コマが創作意欲をかき立て、動物の視点から世界を捉え直し、現実と空想のつながりを探求するきっかけになった」と土屋さん。
土屋さんは「私は子どもの頃から、生き物の姿を絵に描いたり、立体にしたりするのが好きだった。特に空想上の生き物に心引かれる」と話し、「空想上の生き物は、強さや賢さなどの能力、平和や五穀豊穣など、人間の祈りが動物の形を借りて表れたもので、その姿は、古今東西、さまざまな形で表現されてきた。2025年の今、もし私の目の前に現れるとしたらどんな姿だろう、というのを追求している」と続ける。
今回は、それぞれ独自の物語と意味を持つ新作9点を展示。学生時代の卒業制作以来、常に新たな解釈を加えてきた土屋さんの代表的なテーマ「鹿」をはじめ、亡き愛犬をしのび、天国で愛犬が竜のような雄大な姿になることを願って制作した「竜」、額に鋭い角を持ち、彫刻刀を振り回す彫刻家としての自身を象徴する「ユニコーン」、強さのシンボルとして古今東西で愛される獅子をしなやかな強さという新しいイメージで仕上げた「獅子」など。
創作技法としては、主にヒノキやクスノキなどの木材を素材とし、仏像彫刻に見られる伝統的な「玉眼技法」を取り入れ、神秘的な表情を生み出す。 「玉眼技法」は仏像の目の部分に水晶やガラスをはめ込み、現実に生きているかのようなリアルさを表現する技法。土屋さんの作品の動物の目には、ガラス作家の田中福男さんが制作した特注のクリスタルガラスビーズを使う。
木彫の表面から内側の淡い色彩がかすかに現れる、独自の彩色方法も作品の特徴。精緻な線で描き出した動物の「躍動感あふれる」姿に淡い色調の彩色を施すことで、木の自然なぬくもりを保ちながらも、幻想的な雰囲気を醸し出す。
開催時間は11時~22時。観覧無料。7月6日まで。