香港政府運輸署は7月20日、懸案となっていた旺角の「西洋菜南街(Sai Yeung Choi Street South)」の歩行者天国の存続や開放時間の変更について、8月4日を最後に閉鎖することを明らかにした。
旺角は、大昔は「芒角」と呼ばれ、芒草(=ススキ)が多く原生する自然が多い土地だった。後に「旺角」に漢字が変わったが、周辺は花園街(Fa Yuen Street)、通菜街(Tung Choi Street)など植物に関係する名前が少なくないことから分かるように自然が多かったことがうかがえる。今でも香港郊外ではクレソンの栽培が一部で行われているが、西洋菜南街は西洋菜(=クレソン)を栽培している畑が多かった。現在は家電量販店、ファッションの店が多く、香港で最も人口密度の高いエリアの一つであり、アニメ・漫画関係の店が集まるショッピングモールもある香港有数の観光スポットとしても有名だ。
このストリートが歩行者天国になった背景には、当時1時間に2万人の人通りがある一方で、路面スペースが広くない上に車の交通量が少なくないことから交通事故が頻発していた。経済効果と交通事故を減らすという観点から歩行者天国は一気に解決できる一挙両得の方策だった。
2000年8月から試用期間的としてパートタイムでの運用が始まり、同年12月からは、月曜~土曜=16時~翌0時、日曜・祝日=12時~翌0時になった。騒音問題が叫ばれ始めたのは2000年代後半になってから。2010年と2012年にも改正し、2012年後の変更後は終了2時間ずつ短くなり、月曜~土曜=16時~22時、日曜・祝日=12時~22時になった。ただ、騒音問題は改善せず、2014年には、土曜=16時~22時、日曜・祝日=12時~22時に変更となり平日は車の通行が可能になった。
それでも苦情件数は減らず、2015年は729件、2016年は1232件と年々増加の一途をたどり、周辺住民、商店、区議会議員などの関係者に歩行者天国について調査を実施したところ97%が閉鎖に賛成していた。加えて人通りも週末の繁忙時間帯でも最大で1万4800人と2万人を大きく割り込んでいた。そして5月24日に開かれた油尖旺区議会において歩行者天国を閉鎖決議が賛成15、反対1の賛成多数で通過し、閉鎖時期をいつにするかなどの調整が進められていた。
今回の歩行者天国解除は、一部の報道では7月29日からとされていたが、正式には8月4日からで決定した。厳密には、花園街、?油街(Soy Street)、登打士街(Dundas Street)、?路臣街(Nelson Street)、山東街‘(Shantung Street)など、西洋菜南街と交差する通りや周辺の道路も含まれる。運輸署では、これに伴い道路標識の入れ替えなども順次行っていくとしている。
閉鎖理由は、香港の都市構造ならではの問題から発生したといえそうだ。香港のビルは例えば5階までは商業用ビルだが、それ以上は一般住民が住む高層ビルという構造が多い。街のど真ん中に普通の生活をしている香港市民は数多くいる。香港の歩行者天国では、ここ数年、音楽の演奏やダンス、大道芸人の聖地のような場所になっていたが、自分のところに関心を持ってもらうため、さらに大きいな音量になるという悪循環にも陥っていた。一部では100デシベルを超える音量となり(ライブハウスでの音または電車の通るガードレール下の音量)、周辺住民が普通に生活を送れない状況を生み出すという皮肉な状況だった。
すでに若者を中心とした一部の人たちは尖沙咀(Tsim Sha Tsui)のビクトリアハーバー沿いに場所を移して活動している人も現れていたが、旺角のパフォーマーには固定ファンが付いている人も少なくない。現時点で香港政府からは代替案は提示されていないため、旺角の一部のパフォーマーはどこに移動して活動を継続するかについても注目が集まる。