香港の士丹利街に1月8日、おまかせ一本で提供する高級すし店「鮨琥珀」(Shop No.1, UG/F, Malahon Centre, Nos. 10-12 Stanley Street, Central、TEL 2327 0168)がグランドオープンした。
カウンターは3席と5席のL字型の8席のみ。ほかにもVIPルーム1室を用意する。店内のドアや天井など「なぐり」加工を施した木はぬくもりを演出し、壁に掛けられた大沢拓也さんの作品は日本画(膠彩画)と漆工技法を複合的に使って明治・大正・昭和初期の古紙である大福帳を全面に貼っているため独特の風合いがある。そこに、スズ箔で漆で貼り付け、漆の飴あめ色を生かして仕上げたものが店内の明かりと掛け合わされて温かみのある空間を演出する。
器には全て有田焼を採用する。飾り柄の伝統的な柿右衛門柄だけでなく、現代的な白磁を中心にそろえた。カウンターに並べられた平皿には富士山や牡丹が描かれたものを使い、しょうゆ皿、おしぼり置きや茶わん蒸しのスプーンに至るまで店内で使うものはほぼ有田焼でそろえている。
カウンターを預かるすし職人の千葉博文さんは元々、東京の蔵六鮨で働いた経験を持つ職人。山形県出身の千葉さんは子どものころの釣りをする日々で今の魚を見分ける力が備わったというほど、魚に対して厳選したものをオーダーする。香港内のサプライヤーに頼ることなく、以前の築地で築いたネットワークで全国各地から良いものを適正な価格で香港へと仕入れる。「本当にいいものは逆に外に品も情報も出ないから、適正な価格できちんと仕入れることができる」と質の良い魚介類を手に入れるために大切にしてきた日本の仲間を思い、違いの分かる香港人たちに最高級の味を届ける。主となる魚介類だけでなく、わさびはそのままでもおつまみにして食べることができそうなくらいの独特の甘みもある「真妻わさび」を伊豆から仕入れるなど、こだわりは細部にまで余念がない。
マグロなどに関しても日本産だけに固執することなく、その時期その時期で漁場も変わってくることから、味に忠実であることにこだわるため現在はスルメイカを食べて育ったアイルランド産のものを季節的に使っている。アイルランドも気仙沼と同じように暖流と寒流がぶつかる場所に位置し、質の良い魚を手に入れることができるようだ。
ほかにもサバは銚子産、タイは淡路産で表面にお湯をかけ皮を残した松皮造りで提供し、ヒラメは青森産、スミイカは千葉産、アワビは三陸産の蝦夷アワビ、ししゃもは北海道、ハタハタは兵庫、赤貝は閖上のものを使うなど一通りのおまかせコースを食べることで「日本全国の最高のものを香港で楽しむことができる」という。繊細なウニなどは香港への空輸や現地での輸送の際、箱の壁にぶつかってダメージをうけてしまうことも多いが、千葉さんは塩水につけたままの状態で運ばれたウニを使うことで、各地域で採れたそのままの状態に近い形で提供できるようにと試行錯誤を重ねる。おまかせの途中で提供するトマトは静岡産のアメーラという品種で、小ぶりながらも甘みがあるものを使う。変わりとしてはあん肝にはポン酢でなく、上に5年ものの刻んだ奈良漬けをのせて食感も楽しめるようにした。日によって内容は異なるが、価格は2,980香港ドル一本で勝負し、約30品をいろいろと考えながら提供する。
「ゆくゆくはつまみと握りを交互で出すような、日本でも斬新だと注目されているスタイルにも挑戦したい」と千葉さん。
営業時間は6時~23時。