香港の尖沙咀に新しく開業したショッピングモール「K11MUSEA」(L5 506 Victoria Dockside, 18 Salisbury Road, Tsim Sha Tsui, Kowloon TEL2686 1866)に9月13日、京都の懐石料理店「富小路やま岸」がオープンした。
長屋を改装した京都の店構えが見せる趣きとは打って変わり、斬新なデザインを取り入れた建築であるK11Musiaに位置しながらも、のれんをくぐると別世界が広がるような空間に、席数は15席。京都と同じ9席のカウンター席と別に4人用と2人用の個室がある。コーナーには枯山水などを配置し、さりげなく和の要素を取り入れる。
もともと実家が鮮魚店を営んでいた山岸隆博さんはすし職人としてキャリアをスタートし、その後懐石の道に進み、「たん熊北店」「京都一の傳」で修業を積んだ後、2015年に「富小路やま岸」をオープンした。京都の伝統を守りながらも、その独創性で人気店となり、予約も取りにくく、ミシュランの星も1つ獲得している。「食べたことがある食材で、口に入れたときに初めてという驚きを感じてもらいたい」と山岸さんは話す。
同店の特徴として香港でも注目が集まるのは「海膽壽司(うにドッグ)」。同店のシグネチャーとしても提供するウニをたっぷり使ったメニューが生まれた背景には、「日本料理屋が出すすしとは?」という発想があったという。大判の四分の一のノリの大きさと、ウニの板の1列分、そしてへらの大きさなど3つの要素がたまたまきれいに提供できることで生まれたと言い、「当時はインスタ映えなどを狙って考えたものではなく、全てがちょうど良い形に収まったんだよね」と山岸さん自ら誕生秘話を明かす。
香港で毎日カウンターに立つのは義井富明さん。今回の香港店オープンに伴い、2番手の大事な職人を送り込んだという。献立は月に一度、旬なものを織り交ぜて組む。今月は最初の先付として炊きたてのもち米にアワビとイクラを使った「鮑魚糯米蒸(アワビの飯蒸し)」を出す。その後、もう一つの先付けとしてハモと車エビの、ジュレ酢がけ、わん物にはアマダイとゴマ豆腐、向付けには旬の刺し身を提供する。同店の献立は茶懐石を取り入れているため、茶道具でもある「杉八寸」には、アユのすしと、青森産のトウモロコシのかき揚げをのせる。続いて「海膽壽司(うにドッグ)」へ。その後、焚物として、賀茂ナスの田楽、酢物にはウナギ、焼物として近江牛を提供し、ご飯は釜で炊いた白ご飯を漬物と一緒に出す。最後に甘味として果物と最中、抹茶で〆る。
「カウンター越しに眺めていると、お客さまの様子は京都のそれと変わらず、皆さまとても慣れている印象」と義井さん。「特に白ご飯を食べる姿などは日本人と全く変わらない」と続け、京懐石にも慣れた香港人の姿に少し驚きもあるようだ。「ただ、例えば日本人であればアユをまるごと食べるのは普通であるものの、香港の人には少し抵抗があるような人もいるようなので、頭、腹、尻尾などを分けて皿に並べることも」と現地の人が食べやすいようにと気遣う。本来懐石には和牛をあまり使わないが、香港の人たちが和牛を好む需要を受け、通常の献立の中にも日々和牛を織り込むように検討するなど、京都の本質を崩さず現地の人に受け入れてもらえる道を探っているという。
営業時間は18時~23時。当面の間、予約は18時~20時30分、20時45分~23時の2セッションから選ぶ。