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親しまれた店が失われていく香港 老舗「蓮香楼」、今回は本当に閉店か

かつての「蓮香楼」店内の様子

かつての「蓮香楼」店内の様子

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 中環(Central)にある飲茶の老舗「蓮香楼(Lin Heung Tea House)」(160-164 Wellington Street, Central)が8月8日を最後に閉店したことが明らかになった。コロナ禍による経営不振が影響した。45年の歴史がある湾仔にあるベーカリー「快楽餅店(Happy Cake Shop)」(G/F., 106 Queen’s Road East Wan Chai,)も8月2日に閉店した。理由は、大家が店の不動産物件を回収するため営業できなくなった。両店とも長年、香港市民から愛されてきた店だけに、閉店を惜しむ声が市民の間から上がっている。

閉店の前には多くの人がつめかけていた「快楽餅店」

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 蓮香楼は1889年、広州市西部に蓮の餡(あん)を使ったお菓子の店として開業し、その後、飲茶にも事業を拡大。1918年には香港に進出した。最近では少なくなったワゴン式で飲茶を提供する店として香港市民に親しまれ、観光客にも人気があった。しかし、再開発の関係から2019年2月27日に閉店。28日は休業したが、従業員が店のライセンスを取得する形で翌3月1日に「蓮香茶室」に改名し、夜の営業は行わない形で営業を再開した。

 しかし、数カ月後に発生した逃亡犯条例改正案によるデモと2020年に香港を襲ったコロナ禍により経営が悪化した。店は休業する方向で進んでいたが、顔一族の4代目の顔漢彬さんが中心となってオーナーである資本策略社と話し合い、店名も「蓮香楼」に戻し営業を継続してきた。ただ、コロナ禍での香港政府の防疫対策は、1卓当たりの人数やテーブル間の距離まで規定されていたこともあり、経営はさらに追い込まれていた。そして8月9日、蓮香楼は「8月8日をもって営業を終えた」とアナウンス。系列店で上環(Sheung Wan)にある「蓮香居」は営業を継続する。

 台風のシグナル10が発令されても営業を続けてきたことでも知られる不屈の店は、従業員の尽力をきっかけに奇跡的な復活を遂げたものの、復活後に何の影響も受けずに普通に営業できたのは2019年3月から6月上旬までのわずか3カ月。それ以外は混迷の香港に翻弄された悲劇の飲茶の店となってしまった。

 1977年に創業した湾仔の快楽餅店は、こぢんまりとしながらもオーナーが「買い求めやすいパンを売る」ことを経営理念としており、リーズナブルな価格で販売してきた。小麦粉の高騰があるにもかかわらず「鶏尾包」は値上げせず、1個4.5香港ドルを維持していた。ほかにも、「菠蘿包」「墨西哥包」など香港らしいパンを数多く販売してきたが、筒状のパンに生クリームを詰め込んだ「●油筒」が同店の名物として知られていた。

 同店の閉店理由は、店の大家が物件を回収するため。香港では、不動産の所有者が物件を売却するため、借り手は引っ越したり、立ち退きをしたりしなければならないケースが頻繁にあることから、快楽餅店の大家も物件を売却する決断をした可能性が低くない。

 ただ、大家は早い段階でパン店オーナーらに物件回収を通知。それを受けて、オーナーの長男は今年初め、馬鞍山(Ma On Shan)に支店「快楽麺包」を開店した。オーナーはいったん休憩した後、湾仔エリアで店を探す可能性があるとしているが復活は未知数だ。

 両店とも支店が存在しているものの、本店がなくなった。昔から店の入れ替わりが激しい香港だが、その厳しい競争の中で長年生き抜いてきた店だっただけに閉店を惜しむ声が多い。

 ●=女へんに乃。

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