旧暦の正月を迎えた香港は大みそかの2月9日夜から10日にかけて多くの人が嗇色園黄大仙祠を訪れ、正月は、毎年恒例の香港版「開門神事福男選び」である「黄大仙祠上頭●香」で幕を開けた。
これは日本の初詣でのような位置づけで、宋朝の頃から存在したといわれ、旧正月の初日に寺で線香を立てる「頭炉香」が時代とともに「一番に立てること」に変わっていき、最初に立てた人は「今年一番の福を得る」といわれる。今年は福男・福女の枠の一つを香港で活躍する日本人タレントの和泉素行さんが獲得した。
嗇色園黄大仙祠は香港で有名な道教の寺院で、「有求必應(求めれば必ず願いがかなう)」寺として、香港市民だけではなく観光客にも人気がある。獅子山の南側にありその面積は約18万平方フィート。主祭神は黄大仙であり、本殿以外、ほかの建築や施設も特色がある。道教独特の金黄色の屋根と円柱や壁も朱色に染められている。今年も19時過ぎから徐々に人が集まり、早朝までに5~6万人以上が同寺院を訪れた。昨年の約2倍の数字となる。
一番最初を競う「頭炉香」はかつてスタートと同時に、入り口のメインゲートから本殿に向かって駆け上り、幸運をかけて一番に線香を立てた行事だったが、安全性や混雑の状況から、21時にゲートが開き、同イベントに参加する人は本殿前の柵で仕切られたスペースで待機する流れに変わった。21時の開門後は「頭炉香」に参加しない参拝者は、参拝することができる。一方通行となり、「籤」と呼ばれる竹筒に入った占いやひざまずいて頭を下げて祈ったり、供物を捧げたりするエリアは設けず、代わる代わる線香を手向ける。香炉横のチャリティーとして寄付されるさい銭箱には多くの人が100香港ドルを入れ、時には500香港ドル札なども。
正月に最初に線香を立てることができる福男・福女の枠は全部で20人ほど。細長い香炉が並ぶため、その一番前を取ることができた人たちが対象となる。今回2回目の挑戦となった素行さんは17時30分にメインゲートに到着。到着の時間ごとに50人程度ずつブロックに分けられ、21時の開門を待った。
かつて毎年話題になるのは、女優「夏蕙姨」こと、黄夏蕙さんの存在だった。夏さんが干支(えと)のかぶり物をして登場する姿は旧正月の風物詩だったが、移民してからその姿が見れないことを寂しく思う人も多くいた。しかし、今年はたくさんの花をあしらった「小龍女」で身を固め、93歳の夏さんが20時にはゲートの前に登場。「新年快樂。みんなお疲れさま」と話す夏さんに誰もが場所を譲り、集まった市民と写真を撮って数珠をプレゼントするなど、温かい空気が流れた。その後、最前列で参拝するため、23時の子の刻を市民と一緒に待った。
21時に門が開くと、多くの参列者がダッシュで50メートル以上の階段を駆け上る。香炉の5メートル前辺りにまた柵があり、23時の「子の刻」を待つ。これは、1日をおよそ2時間ずつ十二時辰で数え「子の刻」が23時に当たるからだ。
23時の3分ほど前に5メートル先にある香炉の前に移動する。手持ちの太い線香「大砲香」3本を頭の上に掲げ、3回拝む。その後23時ちょうどに鐘が鳴るのと同時に香炉に線香を立て、その年の繁栄を祈る。最後に風車を煙の上で3回時計回りに回す。これを家にもって帰ると一年平穏に過ごすことができるといわれる。
今年の福男を獲得した素行さんは「とにかく待つのが長かった。ただ多くの人がいて熱気があり、寒さは感じなかった」と話す。「ただ楽しかった。健康と何事もなく過ごせますように。日本は年明けから大変なことがあったが、家族、日本と香港の皆が平穏に過ごせますように、と願いを込めた」と言う。
●=火へんに主。