香港市民1人あたり4.7枚保有する計算になる電子マネーの「八達通(Octopus Card)」が4月から順次、香港のタクシーで支払いができるようになる。香港のほとんどの交通機関で使用できたオクトパスが唯一といっていいほど決済できなかったのがタクシーで、これによりオクトパスの利便性がより高まる。
オクトパスは1997年に発行を開始し、現在まで3450万枚が発行された。公共交通機関においては香港市民の99.9%が使用しているというデータもある。非接触型のカードで通信方式は「NFC」を採用し、香港では、地下鉄、バス、ミニバス、トラムなどの公共交通機関のみならず、トンネル、駐車場、商業ビルに入るための入館カード、自動販売機、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなど幅広いエリアで使用でき、香港の生活には欠かせないカードとして定着している。
中国はスマートフォンを駆使した世界でも先端を行くキャッシュレス社会だが、香港の場合はオクトパスが発達していることでキャッシュレスながら非接触型カードによるキャッシュレス社会で、中国と形態が異なっているのが特徴だ。
タクシー業界ではすでにアリババによる「Alipay」、テンセントの「WeChat Pay」、オクトパスがアンドロイド用スマートフォンに開発した「O! ePay」の各アプリでサービスを提供しているが、上述のように香港ではスマホ決済がまだ一般的でないこともあり普及が進んでいない。
早ければ4月利用開始となるが、支払い方法は、タクシードライバー専用に開発されたアプリをドライバーがインストールした場合、そこに客自身のオクトパスをかざす方式、すでに運用されているO! ePayで決済する方式、QRコードで決済する方式(このサービスのみ11月からの予定)の3つになる予定だ。状況によるが最速で0.3秒で支払いが済ませられる。iPhoneユーザーは依然としてスマホ決済はできないがオクトパスカードでの決済ができるようになる。
ドライバーの利用促進についてオクトパスの張耀堂行政総裁は「初年度の各種費用を無料にする計画があるほか、優遇措置を考えている。ドライバーと乗客双方にメリットがある方策を推進する予定」としている。オクトパス側では、偽造カードでは決済できないようにするための措置も講じるとしたほか、ドライバーが利用申請する際、ドライバー本人の個人情報を厳密に要求するとしている。現在、ドライバーがO! ePayの利用を申請した場合、利用開始まで1営業日が必要だったが、オクトパスの場合はもう少し時間がかかる可能性を示唆した。
香港のタクシーでは、少額の小銭の場合、乗客の見栄や釣りを受け取る時間がもったいないからと受け取らない乗客も少なくなく、それが逆に小銭のお釣りなら最初から客に釣りを返そうとしないドライバーを出現させた。オクトパスで決済ができれば端数はもらえなくなるため、約4万人いるタクシードライバーのうち導入を試みる人がどれだけいるのかは未知数だ。
アリババやテンセントもオクトパスに対抗する優遇措置を実施してくることも考えられるため、乗客にとっては、より良い環境になる可能性がある。