北京ダックの店として知られていた中華料理「美利堅京菜(American Restaurant)」(G/F., 20 Lockhart Road, Wan Chai, Hong Kong)が6月に入り突然閉店したことが明らかとなり、68年の歴史に幕を下ろした。
中華料理店であるにもかかわらず「アメリカンレストラン(American Restaurant)」としたのは、昔は、湾仔近くのふ頭にはよくアメリカの軍艦が停泊していたことに由来する。アメリカ海軍のプレゼンスは世界的に圧倒的であったことから名前にアメリカと付けられた。駱克道(Rockhart Road)や謝斐道(Jaffe Road)にレストランやバーを含めたナイトライフが充実しているのはアメリカ海軍の海兵隊をターゲットにした一面がある。「American」を中国語の発音を当てて「美利堅」という漢字を使用。こうした歴史的背景から西洋人社会にも広く知られており、「北京ダックが気軽に食べられる店」としての認知度が高かった。香港ローカルにも知られており、かつ観光客も訪れることから幅広い客を抱えている店だった。
創業は1950年でChung Shu-luenさんが湾仔道(Wan Chai Road)で創業。当時、近くには國泰戲院(Cathay Theatre=115 Wan Chai Road)があった。その後、入居していたビルが取り壊されることが決まったため1975年に現在の場所に移った。内装は、移転してから手をほとんど入れていないため昔の高級レストランの名残があり、タイムスリップしたような気分になる場所でもあった。昨年秋ごろ、入り口のドアに内部改修を行う旨を知らせる貼り紙が出され、いつ再開するのかは示されていなかったが、突然、閉店を告げる貼り紙に変わり、すでに看板も外され、次の店の仮囲いができている。
過去には、イギリスのアンドルー王子、歌手のマイケル・ジャクソンや陳奕迅(Eason Chan)さんが来店したことで知られ、立法会議員の葉劉淑儀(Regina Yip)さんは選挙後の祝賀会場に利用するなどひいきにしていた。梁振英(CY・リョン)前行政長官の行きつけの店など、著名人御用達のレストランとしても知られている。2013年にはギャンブルで借金を抱えた従業員が精神不安定に陥り、開店前の店に火を放つ事件も発生。営業前であったことと20分で消し止められたこともあり、けが人もなく、店は焼けたエリアを除いて営業を継続した。
昔ながらの店ということもあり、ウエーターなどは「ホスピタリティー」についてほとんど気にしていない状況で、有名店でありながら、ある意味での「古き香港」が残っている不思議なレストランでもあった。料理は大・中・小の3サイズから選べることやワインなどのアルコール類の持ち込みが自由であることも特徴の一つだった。
料理で有名な「北京ダック」は事前予約が必要なほどの人気を誇る。大きくてプリプリのエビが食べられる「エビチリ」も日本人にも人気があり、エビにかかっているチリソースが服に飛びそうなほどの勢いであることも。鶏肉を炒めた後に、さらに鶏肉を蒸し、ニンニクで味付けた「山東手撕鶏」という料理でも知られていた。