
オンラインで注文した料理を配達する宅配サービスプラットフォームの一つ「Deliveroo」が3月10日、香港市場から撤退すると発表した。4月7日まで営業を続ける。コロナ禍による行動変容、「北上消費」、ライバルの急成長などさまざまな要因により香港撤退を決めた。
香港の食料事情の大前提は、家が狭いことに比例して台所も小さく、調理する環境にはあまり適していないことに加えて、共働きが基本であることだ。これらを反映して外食産業も発達しており、外食の回数は日本よりも多い。フードデリバリーは、そうした背景を持つ香港社会にフィットする事業形態として根付いてきた。
Deliverooは2013年にロンドンで創業し、フランス、ベルギー、イタリア、シンガポールなどで展開。香港市場には2015年に参入した。一時期はDeliverooのほか、「Uber Eats」、シンガポールで創業し、現在はドイツのフードデリバリー企業であるDelivery Heroの傘下である「Food Panda」で3強を形成していた。しかし、Uber Eatsが2021年末に香港市場から撤退し、その代わりに2023年、「KeeTa」が香港進出。親会社は北京に本社を置くテック企業「美団」で、電子商取引のプラットフォームや口コミサイトなどのビジネスも展開している。
2024年3月現在のシェアは、KeeTa=44%、Food Panda=35%、Deliveroo=21%。最後発のKeeTaが一気に伸びた理由は、親会社はフードデリバリー専業ではないため、他の事業で稼いだ資金を香港市場に回せること、近距離のサービス料金は、KeeTa=19香港ドル、Food Panda=23香港ドル、Deliveroo=22香港ドル。長距離になると、同40香港ドル、53香港ドル、60香港ドルで、近距離、長距離ともKeeTaが一番安いことなどが人気を呼んだ。
Deliverooは、コロナ禍前は6割を超えるシェアだったが、撤退の理由に、人口750万人の市場規模に3社は多すぎるという点を挙げる。そのため、値下げによる顧客獲得競争となり利益が出にくくなった。それに加え、コロナ禍の影響で、自宅で料理をする人がコロナ禍前より増えた上に、北上消費も加わり、香港のケータリングサービス市場そのものが縮小傾向にあった。香港における2024年のDeliverooは、同社の世界の売り上げ全体の5%を占めていたが、そこから税金や減価償却費などを加味すると、グループ全体の業績には悪影響を与えていた。1万2000人以上の配達員は自営業としての登録、雇用契約のため、解雇にはならない。
こうしたさまざまな要因から、香港市場でビジネスを続けていくことは困難と判断した。今後は、資産の一部をFood Pandaに売却し、利用者や配達員はFood Pandaに移行することになるほか、レストランの一部はFood Pandaに移ることになる。
現在Deliverooの有料会員が半年以内にFood pandaの会員に加入し、特定のプロモーションコードを入力すると、無料でpandapro会員のステータスが与えられる。以前Deliverooに登録したものの、有料サブスクリプションを利用していないユーザーは、アプリ内のお知らせからプロモーションコードを入手でき、このコードを使うと、Food pandaでのデリバリーや「生活百貨」注文時に半額割引が受けられるという。