香港政府と中国政府商務部は昨年12月14日に香港と中国版の自由貿易協定(FTA)である経済貿易緊密化協定(CEPA)で新しいルールを締結し、1月1日にスタートした。香港が原産の貨物は全品目が対象となる。中国政府が策定した第13次5カ年計画(2016~2020年)でCEPAをより進化させようと盛り込まれていたもので、それが実現した形だ。
CEPAは2003年6月29日に調印されたFTAで、重症急性呼吸器症候群(SARS)で一気に落ち込んだ香港経済を立て直すために作られたもの。2004年1月1日から273のメード・イン・香港の製品がゼロ関税となり、2006年1月1日から全ての香港製品がゼロ関税となっていた。そのゼロ関税となった金額は2004年から2018年10月までの間に合計971億香港ドル分にも上る。
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)と同じように、貿易の大きなファクターとなるのが原産地証明だ。サプライチェーンが世界的規模で複雑化したため、例えば、パソコンの部品Aは日本製、部品Bは中国製、部品Cはアメリカ製、組み立て工場は日本。組み立てるのが日本であるため生産費用と人件費(これも日本人労働者と外国人労働者ではコストが変化する可能性がある)も日本となる。この商品の中で日本の割合が何%を占めるかで日本製として輸出できるかどうかが決まる。CEPAも同じで「メード・イン・香港」の定義が定められており、今回はその基準が大幅に緩和されたためメード・イン・香港が名乗りやすくなった。
その計算方法は「累加法(Build Up Method)」か「扣減法(Build Down Method)」の2つ。前者であれば、「原産材料価格」「労務費」「製品開発コスト」の3つを加算し「輸出貨物の本船渡条件(FOB)価格」で割り、それに100%かけた数値となる。これが30%以上であれば「メード・イン・香港」を名乗ることができる。後者は「FOB価格」から「非原産材料価格」を引き、「FOB価格」で割って100%をかける。40%以上であれば香港製となる。製品の有効期間は発行日から1年間。これにより、これまで約1900品目がゼロ関税だったが、これまで適用外だった製品も上記の数値を満たせばゼロ関税となり約6000品目にまで拡大することになる。
これに対応するため、香港と中国では食品について国際食品規格委員会(CAC)などの国際規格に定められた基準などを運用し専門チームを設立した。技術面でも同様にルールの遵守、関連する専門チームを作ることにしている。
今回の締結では、中国政府が強力に推進している「粤港澳大湾区(Guangdong-Hong Kong-Macao Greater Bay Area)」内における通関の効率化や利便性向上を図るための措置を新しく設けた。これは広東省9都市(広州市、深セン市、珠海市、仏山市、恵州市、東莞市、中山市、江門市、肇慶市)と香港間の越境通関手続きの迅速化や税関共通の電子フォーマットの共同開発などで、香港と中国の経済の一体化がますます進む要因になると見られる。