映画館運営最大手のひとつ「UA戲院(UA Cinemas)」が3月8日、突如、閉鎖された。狭い香港では、時代の進化によって娯楽の多様化し、海賊版が出回ったり、ネットによる動画が普及したりしても映画は一大産業であり、依然として重要なエンターテインメントであるだけに、香港市民に大きな衝撃が広がっている。
UAは、香港映画が今以上に勢いがあった1985年に紀愛華 (Ira Kaye)さんが沙田(Shatin)の新城市廣場(New Town Plaza)で「UA6」の映画館名で創業した。1スクリーン当たりの席数を少なめにする一方、複数のスクリーンをそろえるアメリカスタイルのシネマコンプレックスを初めて香港に導入。1990代に入ると電話やネットで予約を受け付けるようになり、2001年にはVIPのような高級なサービスを行う会員制の「Director’s Club」を「UA太古城(UA Cityplaza)」に開設した。2007年にはIMAXシアターも設けるなど、映画館の進化の先端を常に歩いてきた。
ライバルの「百老匯院線(Broadway Cinema)」と洲立影藝(Multiplex Cinema)が運営する「MCL 戲院(MCL Cinema)」、新興の「Cinema City」の「シネコン四天王」を形成して香港映画界をけん引。「UA Mega Box」「UA Cine Moko」「UA iSquare」など多くの映画館を抱えていた。
閉鎖前日の3月7日夜からホームページが更新されず、ログインできない状態になった。その後、ウェブでのチケットの購入が不可となりフェイスブックの公式ページが消失。8日朝にUAのサイトで正式に閉鎖が告知された。
売り上げの減少は、2019年の逃亡犯条例改正案に伴うデモが始まり。2020年に入り新型コロナウイルスの感染拡大。香港政府の政策により、2020年3月28日から3回にわたって一時営業停止となった。停止期間は合計で163日にも及ぶ一方、営業停止解除後の営業期間は183日間だった。営業日数のほうが多いが、収容人数の制限などの各種防疫対策をしなければならなかったことから売り上げは低迷した。
営業停止期間では、半年近く収入はゼロだったことになるほか、家賃の減額を求めて大家と交渉をしていたが拒否されたこともあり、止血ができず、急速に財政状況が悪化した。会社側も香港政府による給与補償の補助である「保就業計劃(Employment Support Scheme)」を2度申請し、826万香港ドルを活用し、スクリーン1幕あたり10万香港ドルの支援を受けるなど、事業継続へ向けての努力は継続していた。
ダメ押しとなったのは昨年12月2日の3度目の一時営業停止。2月18日に再開されたが、クリスマス、新年、旧正月、バレンタインデーという大きなイベントが過ぎたことで、業績回復のきっかけを失った。
K11 Museaに内にあった12スクリーン、1700席を誇る「UA K11 Art House」は2月28日で閉鎖。それより約1カ月前の1月26日にMCLが5,600万香港ドルでK11 Art Houseを買収し3月1日に運営を始めると発表するなど、UA閉鎖の予兆はあった。
失業した281人の従業員は8日に集められ、会社側から今後の金銭的な補償について説明を受け、相応の補償は受けられる模様。マカオのIRリゾート、澳門銀河(Galaxy Macau)内で運営している「UA銀河影院(UA Galaxy Cinema)」はフェイスブックで「閉鎖の影響は受けていない」と発表している。